第3話 脱出への道のり


 目を開けると、あたり一帯が暗い景色であった。


(イリナはどこだ?)


 辺りを見回すと、近くで気を失っているイリナを見つける。


(無事でよかった)


 胸を撫で下ろしながら気を引き締める。


(ここが二階層……)


 薄暗い二階層は、空気が重く、いつも以上に冷たく感じた。


「こんなの知らないぞ……」


 【魔法学院アストレア】のシナリオにこんなシーンは存在しなかった。


 シナリオ通りなら、二階層のイベントは存在しない。


 いや、実際には存在しているが、学園を通う中で三階層をクリアする課題が出される。その通過点でしかない階層である。


 逆に言えば、現状の俺たちでは二階層をクリアすることはできないに等しい。なぜなら、ストーリー状、入学当時のレオンですらこの階層をクリアしていなかったのだから。


 そう考えている時、イリナが目を覚まして、俺に気付く。だが、何かを言おうとしているが、言葉が出てきていなかった。


「イリナさん大丈夫ですか?」


 俺の言葉に少し安堵したのか、真剣な表情をしながら言う。


「だ、大丈夫です。それよりも、私のミスでダイラルさんまで巻き込んでごめんなさい」

「気にしないでください」


 ハッキリ言って、あの状況を予測できる人が居るわけがない。


「ダイラルさん、転移結晶で離脱しましょう」

「そうですね……」


 イリナさんは自身の転移結晶を地面に叩きつけるが、転移されなかった。


「え、なんで⁉」

「……」


 最悪なパターンを引いてしまった。


 さっきとれた選択肢は三つ。


一 助けを待つ。

二 教師たちが居る場所まで脱出する。

三 転移結晶で離脱する。


 現状、一番楽にこの状況を打破できる方法は三であったが、転移結晶を使っても離脱できなかった。つまり、転移水晶は何かしらの条件下で発動するということ。


 それに加え、転移水晶を一つ割ってしまったことから、どちらか一方しか持つことが出来ないことになった。


「ど、どうしよう……」


 今にも泣きそうであるイリナさん。


 俺は、自身が持っている転移水晶をイリナさんに渡す。


「ぇ……」

「一応は持っていてください」

「でも……」


 イリナさんが言いたいことはわかる。


 現状の俺たちにとって、転移水晶とは生き残る最後の手段に等しい。


「王族であるイリナさんが持っていてください」

「それはダイラルさんも一緒じゃないですか」

「ここはアストレア王国の管轄。そこで隣国の王女が死んでしまうのは困りますので」


 冷たく言って入るが、事実そうである。まあ、押しキャラではなくても、ヒロインや主人公のことは好きだ。


 今まで画面の中で応援してきたキャラが目の前で死ぬのは嫌に決まっている。


「それに、俺は死ぬことは考えていませんよ。一緒に脱出することを考えましょう。転移水晶は最終手段ってだけなので」

「は、はい」

「それと、ここからは敬語を辞めよう」


 俺の言葉に首を傾げたイリナ。こんな状況で言われるのだから、そう言う反応を取るのは分かる。


 だけど、ここから最低でも数度は戦闘がある。その時に敬語を使っているとロスが生まれてしまう。その所為で死ぬのだけはごめんだ。


「う、うん」

「それで、ここから脱出する方法だけど、一階層を目指しましょう」

「でも、道とか分からないよ?」

「それは大丈夫。俺が案内する」


 最低限のマップは覚えているから何とかなるはずだ。


「じゃあ、前衛が俺、後衛をお願い」

「うん」


 そして、俺たちは二階層から一階層へ向かい始めて行った。



 歩き始めて数十分ほどが経った時、目の前に数体のゴブリンとコボルトが居た。


「やり過ごしましょう」

「ど、どうやって?」

「あの岩陰に隠れて、ゴブリンたちが消えるまで待ちましょう」


 できるだけ体力を温存しておきたい。はっきり言って、無駄な戦闘を行う余裕はない。


 そこから、十分ほどが経ち、やっとゴブリンたちがこの場から立ち去ったのを確認して、先へ進んでいった。


「ダイラルはなんで道を分かるの?」

「俺が王族だからだよ」


 本当は王族であろうと、ダンジョンの内を理解しているわけがないが、前世の記憶があるなんて言えない。


 だから、うまい理由としては、このあたりだろうと思った。


「す、すごいね。私は母国にあるダンジョンの内装なんて理解していないよ」

「アハハ……」


(あっぶね)


 そう言えば、イリナって王族であったわ。


 その後も、軽い雑談をしながら先へ進んでいくと、あっという間に一階層へ行ける時空の狭間を見つける。


 その瞬間、イリナの表情が明るくなる。


「後ちょっとだね」

「うん‼」


 そして、俺たちが一階層へ行ける広場へ行こうとした瞬間、目の前からゴブリンマジシャンとゴブリンライダーがこちらへ気付いてしまった。

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