第2話 正ヒロイン
黒板に貼られている座席表を見て、自身の席に座る。
(俺の隣はイリナか)
隣国の第二王女であるイリナ・サルバ。国際交流という名目でこの学院に通っている設定だったはず。
流石ヒロインということもあり、銀髪巨乳の容姿端麗。
「初めまして、ではないですよね」
確かシナリオ通りなら、幼少期に一回だけ顔を合わせたことがある。
「はい。これからよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺の斜め前に座っているニーナとその隣に座っている主人公---レオン・ベルトは、ぎこちないが軽く話していた。
(よしよし、このまま順調に進んでくれ)
そう思っていると、教室に一人の男性が入ってきた。
「皆さん、入学おめでとうございます。このクラス担任を務めるジャック・レイトです」
ジャック先生はアストレア王国随一の魔導師である。
だが、ジャック先生以上の魔導師も世界には存在している。それは世界七魔導師。名前の通り、世界最強を七人集めた魔導師である。
「皆さんには、本日試験を受けていただきます」
その言葉を聞いて、全員が驚いていた。試験内容は、ダンジョンの一階層に潜らされて、実力を確かめるというもの。
(重要なイベントだ)
この試験によって、主人公であるレオンとヒロインたちの距離が縮まるイベント。そんな中、ダイラルは、何も成果を出すことが出来ず戻ってきて、周りに当たり散らしていたはず。
(絶対にそんなことはしない)
それよりも、ニーナとレオンの距離を縮めるいいチャンスでもあるかもしれない。
そう思っていると、レオンがジャック先生に尋ねた。
「試験の合格内容とかは何ですか?」
「合格とかは無いよ。ただ、皆の力を確かめたいからやるだけですよ」
ジャック先生がそういった瞬間、クラス全員をダンジョンに転移させられる。
(すごい、流石は世界七魔導師)
俺が感心していると、ジャック先生が全員に水晶玉を渡し、淡々と説明を始めた。
1 俺たちをダンジョン内にバラバラへ転移させること。
2 死にそうになったら、水晶玉を割ったら、この場所に戻ってこれるとのこと。
3 俺たち全員は、教師たちが遠隔で監視することが出来るとのこと。
「では皆さん、初めてのダンジョンだとは思いますが、楽しんでください」
ジャック先生は唐突にそういい、俺たちをダンジョン内に転移していった。
あたりには人の気配がなかった。
(やっと始まったのか……)
そう思いながら深呼吸を挟み、心を落ち着かせる。
「ニーナとレオンが一緒にダンジョン内で行動をしてくれればいいけど、探そうとしても無理だしな」
ダンジョン内は、国一つ分ぐらいの大きさがあり、人を探すことなんて無理に決まっている。
「まあ、誰かと出会うまでダンジョン内でも探索するか」
ダンジョン内を探索し始めると、すぐさまコボルトが目の前に現れた。
コボルトは俺のことを目撃するや否や、こちらへ突進してくるように近寄ってきた。
俺はすぐさま剣を抜き、コボルトと戦闘を開始した。
素早いコボルトの攻撃をよけながら、こちらが攻撃できる隙を狙っているが、徐々に体力がなくなっていくのがわかる。
(ダイラル。運動しなさすぎだろ……)
そう思いながらも、コボルトの攻撃を避け、一瞬の隙をついて首を切り落とした。
「これ、かなりきついぞ」
想像を超えるほど、ダイラルの体力がない。剣術だってなんとなくで戦っているだけ。魔法なんてもってのほかだ。
(どうしよう……)
本当なら水晶玉を使って帰りたいところではあるけど、ニーナとレオンを見つけるまではなぁとも思った。
(う~ん、どうするか)
そう考えていると、数人の声とモンスターの叫び声が聞こえた。
俺はすぐさまそちらへ向かうと、そこにはイリナとモブ二人が五体のゴブリンと戦闘を繰り広げていた。
モブが一人、また一人と水晶を割り転移していく中、イリナだけは魔法を使いゴブリンを一体ずつ倒していく。
「サルバ王国の代表としてきている私が、こんなところで負けるわけにはいかない‼」
そうつぶやいた瞬間、三体のゴブリンが一斉にイリナへ攻撃を仕掛ける。
腰に掛けている剣を引き抜き、イリナを守りに入ると、驚いた表情でこちらを見ていた。
「イリナさん、援護をお願いします」
その言葉に頷き、一体ずつ確実にゴブリンを倒していくと、奥からホブゴブリンが現れる。
「な、なんで一階層にホブゴブリンが……」
ホブゴブリンとは、三階層にいるモンスターであり、一階層にいるはずのない存在。
俺がイリナさんの方を向くと、水晶玉を割る判断すらできない状態であった。
(クソ、どうすればいいんだ……)
その時、ホブゴブリンが叫びだしながら、イリナさんに攻撃を仕掛けた。
「ウギャギャギャ‼」
間一髪で避けたイリナさん。だが、その時、イリナさんが立っている地面が崩れ落ちていく。
(やばい‼)
俺はイリナさんの手を取ろうとした時には遅く、一緒に二階層へと落ちていった。
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