第4話 宿屋とご飯

 町をマップで探して宿屋に到着した。

 ドアをくぐって中に入る。


「宿泊ですか? 食事ですか?」

「あ、両方で」

「一泊二食200ゴールドです」


 よかった部屋は空いているようだ。

 もしかしたらインスタンス空間かもしれないけど。

 インスタンスというのは一時的なという意味でMMOの場合、キャラクターやパーティー単位で別マップになっている状態を言う。

 他のキャラと座標が同じでも別扱いになるという、ちょっと変わった仕組みのことだ。

 大きなゲームでは大人数に対応するために、よくこういうことがおこなわれる。


「食事っ♪ 食事っ♪」


 十歳児でもとくに何も言われなかった。


「今日のメニューです。スープとパンですね」

「ありがとうございます」

「ふふふ」


 宿屋のお姉さんが食事を置いていく。

 パンは黒パンで、日本のよりも硬いパンだ。

 それにブラウンシチュー。

 ジャガイモ、ニンジンをはじめ野菜たっぷりで、何のお肉か分からないけど肉も入っている。


「シチュー美味し」

「パンはこのシチューにつけて食べるんだよ」

「はーい」


 お姉さんに食べ方を教わった。

 私たちは町の外の人に見えるらしい。


 パンがシチューを吸い込んで、いい感じになる。

 とっても美味しい。


 リアルではいつももっと安いご飯を食べていたので、これくらい手の込んだ料理は久しぶりだった。

 こういう料理なら自分たちでも作ってもいいかもしれない。

 なんとなく料理をする気力がなかったけど、ゲーム内だしね。


「もうなくなっちゃった」


 料理はあっという間に完食した。


「ごちそうさまでした」


 さてお酒が入っている他の人に絡まれたりする前に部屋へ戻ろう。

 さっきからおじさんたちが声を掛けたそうにちらちら視線を感じるしね。

 ほとんどNPCみたいだから大丈夫だとは思うけど。

 プレイヤーのつきまといとかも怖いもんね。


「じゃあ、部屋いきますね。鍵ください」

「二階の奥の部屋ね、はい」

「ありがとうございます」


 レトロな鍵を受け取って二階へ上がり奥へ進むと、ポータルの表示がある。

 鍵を回して中に入ると、普通の一部屋があった。

 バス、トイレはなし。

 ベッドとテーブル椅子があるだけの質素な部屋だ。

 部屋の奥には窓があって外が見える。

 窓ガラスは世界観からないかと思ったけどちゃんとある。

 空は薄暗く、もうすぐ完全に陽が沈みそうだった。


「けっこう雑草採りも疲れたのかも」


 ベッドに横になってごろごろする。

 ベッドは無駄な装飾とかはないシンプルなものだけど、出来はいい。

 シーツも白くすべすべしていて品質そのものはいいと感じる。

 なにより布団がふかふかですごく気持ちいい。


「えへへ、おやすみなさい」


 家のパイプベッドは硬いタイプだったから、ちょっと感覚が違う。

 ふわふわ快適ベッドでしばらくその寝心地を堪能する。

 そうしているうちに眠りに落ちた。


 チュンチュン。

 チュチュチュチュ。


「朝チュンじゃんか……」


 まだ早朝の空は、白っぽくて朝霧が出ているようだった。


 コケコッコー。


「ニワトリもいるんだ」


 昔のRPGに町中にニワトリがいるゲームがあったことを思い出す。

 俺が見たのはプレイ動画だったけど、なんだかノスタルジーを感じてじんわりとした。


 ニワトリも捕獲できたらお肉になるのだろうか。

 唐揚げとか作ってみたい気もする。

 どうせゲームなのだし。


 でもさすがに町中で飼われてるニワトリ攻撃したらあかんのは分かる。

 リアルなNPCのいる世界でそんなことしたら怒られてしまう。

 牢獄行きになったら大変だ。


 パジャマとか持っていないので、そのまま寝たけど、シワとかにはなっていないようだ。

 そこまでは再現されていないと。

 物理エンジンを積んでいても、限界はあるのだろう。


「お腹空いたぁ」


 一階へ降りていきテーブル席へと座る。


「おはよう、マリナちゃん」

「おはようございます」


 宿屋のお姉さんの名前は聞いていないな、そういえばと思ったけれど、口下手なので聞くのも躊躇われる。


「はい、朝ご飯と牛乳だよ」

「ありがとうございます」


 パンと昨晩とは違うホワイトシチューだ。


「今日はウサギ肉のホワイトシチューだよ」

「なるほど、いただきます」

「いっぱい食べてね」

「はいっ」


 さてパンをシチューに浸しながら食べ進めていく。

 クリーミなシチューは今朝のも美味しい。

 具は夜よりは小さめに切られていて、食べやすい。

 夜が食べ応えを目的にしているなら、朝は喉を通りやすそうな配慮があるのかもしれない。

 そこまでゲームが再現しているのか分からないけど、なんとなくそう感じた。

 そういう設定の料理とも考えられる。


「美味しい」

「お口に合って、よかったわ」

「はい、とっても美味しいです」

「ふふふ」


 宿の客たちと共に朝食を食べる。

 朝ご飯が大人数というのはちょっと慣れていなかったけれど、こういうのも悪くはないと思った。

 大人数といっても小さめの安宿なので十五人くらいだろうか。

 それでも家の両親と妹の四人と比べたら多いだろう。


 妹のルイカはちゃんと生活してるかな。

 俺も家事の一部などを担っていたので、残された妹は心配だ。

 しっかりものだとはいえ兄がいなくなってしょげていないだろうか。

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