第2話 水汲み
スローライフ系MMO-RPG。
「スローライフ・ファンタジー・オンラインだっけ」
うむ。一応としてクエストも実装されている。
レベルもあるにはある。
ただ世界は一つで、みんなで共有なので、あまり自分勝手なことはできない。
このゲームは約二年前にベータ版が始まってずっとそのままだった。
そしてつい最近、採集システムがアップデートされて、採集ポイント制から、ほぼすべてのものが採集可能なように変更されたのだ。
それ正式版になって爆発的ヒットを飛ばしているとニュースになっていた。
もちろん俺も知っている。
そして通常の頭につけるゴーグルのVRゲームだけでなく、こうして医療用が先行しているフルダイブにも対応しているということなのだった。
「それで、クエスト、クエスト、だったね」
視界の右隅にあるクエスト一覧をタップすると、ニョキッと詳細が表示される。
「なになに、エリアル家の水汲み。って水汲みかぁ」
エリアルさんの家向かう。
さいわい、ミニマップにどこが誰の家か記載がある。
「エリアルさんの家はここですか」
「そうよぉ~、アルバイトの子?」
「そうです!」
「かわいらしいわね。水汲みなんだけど、重いわよ。頑張ってね」
そう言われて、ビンを二十個渡された。
ビンはストレージに入れる。
「川というか沢はあっちだから」
そう言って右の方向を指さす。
少し歩くようだ。
とぼとぼと沢へ向かって歩く。
歩くのもなんか自分とは感覚が微妙に違って、歩きにくいというか。
そっか、身長が下がったから、変に感じるんだ。
「女の子、なんだもんな」
沢へ到着した。
水が湧くポイントからほど近いからか、とくに汚れも臭いもしないことを確認する。
そう、フルダイブなら臭いもするのだ。
例えば、草の青臭さとか、風の匂いとか。
暖炉や釜の薪の焦げた
「どれどれ」
ビンに水を汲む。
「ちょっと味見を」
ごくごく。
「美味しいっ、お水だ」
新鮮なお水だった。美味しい。
なんとなく家や学校の水よりも美味しく感じた。
なんだろう冷たいからだろうか。
「さって、お水汲まなきゃ」
全部で二十個。次々に汲んでいく。
汲んだものはストレージに収納していく。
ストレージとかインベントリとかアイテムボックスとか色々呼び方がある。
とりあえずストレージと呼んでおく。
ちなみにアイテムボックスは魔法カバン、魔法袋のことでこちらはアイテムになる。
「終わった!」
少し時間が掛かったが、全部終わった。
「重いって言ってたけど、ストレージで簡単じゃん」
うむ。ストレージなら重量は感じないのだ。
制限いっぱいまで入れても、重くならないみたいだし。
しかも今の時点でもまだ余裕がたっぷりあった。
「うふふ。るんるん♪ るるるんるん♪」
声まで高い女の子の声になっていて、いい気分だ。
鼻歌なんて歌っちゃって、俺も浮かれている。
エリアルさんの家に到着して、ビンを順番に出していく。
「あら、もう終わったのね。すごいわ」
「えへへ」
「はい、報酬。10ゴールドです」
「ありがとう」
「おまけに、飴ちゃんあげるわね」
「あら、ありがとうです」
「ふふふ、いい子ね、じゃあね」
「ばいばい」
金貨、なのだろうか。
金色に見える10ゴールドを受け取る。
これもストレージに入れると、合計金額が表示されている。
【飴ちゃん】
『舐めるとHP50回復』
ふむ。これで回復アイテムなんだ。
「空きビン」と「水を入れたビン」もちゃんと見ておくんだった。
ゲームだしね。
周りを観察していると、同じように他の家で受注した水汲みのバイトをしている子が何人かいるようだった。
沢へ向かって行く子がいる。
そういえば、ほぼすべてのアイテムが採集可能だという話だった。
その辺の草を一つ抜いてみる。
【ラバエル草】
『雑草。これはこれで用途がある』
どんな用途なのかが知りたいんだけどね。
なかなか世の中うまくいかないものだ。
とりあえず暇なので、雑草をもう一種類抜いてみる。
【エカルバ草】
『雑草。これはこれで用途がある』
うむ。さっぱりだ。
まあストレージのマスを二つも専有するけれど、入れておこう。
ストレージは一部のゲームのように十六マスとかの少ないのではなく、ずらっと百マスくらいある。
さらに必要に応じてスクロール出来るようになっていたので、余裕だろう。
医療行為として俺自身は無料でゲームができるみたいだし。
もしかしたら保険適用でお金払っているのかもしれないけど、ちょっと分からない。
今は最先端医療もいわゆる被験者として参加すれば保険適用が利くようになって助かる。
ちなみにフルダイブマシンはまだ医療用でとても高価だと聞いた。
一般ゲーム用になるまでには、量産や技術的ブレイクスルーが必要そうだった。
それでもコンピューター関連技術は、ムーアの法則やドッグイヤーのように日進月歩なので、そのうち安くなるのだろう。
「むう、雑草……」
「ふふ、かわいい」
「だ、誰」
お姉さんが私が雑草と格闘していると声を掛けてきた。
十八歳くらいの町娘だ。
たぶんNPCさんだろう。今のNPCはAI搭載で自然に会話できる。
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