スローライフ・ファンタジー・オンライン
滝川 海老郎
第1話 交通事故。マリナ爆誕
俺は普通の高校生だったはずの遠藤
今夢を見ていたんだが、意識だけが覚醒したところだった。
実はな、登校中に車に轢かれた。
そりゃもう見事に信号待ちに突っ込んできた。
それで俺は重体なのだろう。
「斉藤さん……」
「うっ」
「斉藤徹さん、聞こえますか」
どこからか看護婦さんの声が聞こえる。
いや、看護婦だと認識できるのは変なのだけれど、目の前に看護婦さんが浮いているのだ。
「は、はい。でもここ」
「体は病院の集中治療室にあります」
「体?」
「これは今、研究中のフルダイブマシンの映像です」
「あぁそういえばニュースで」
「はい。最新技術はすごいですね。ここまできたんです」
仮想空間に看護婦さんと俺が浮いているのだ。
横向きだった俺は起き上がってみると、床が発生して立つことができた。
「残念ながら、体の方はボロボロで、あなたは意識がありませんでした」
「つまり」
「はい。脳死ではないかの確認のため、こうして意識を探しに来たのです」
「なるほど。それほど俺の怪我って酷いんですか?」
「そうですね、当分は起き上がれないかと」
「そ、そうですか」
「そこで徹さんには、これからゲームの世界で生活してもらいます」
「ゲーム」
「ゲームはお好きですか?」
「それなりには」
「では、説明は向こうのAIがしてくれるので、さっそく行ってみましょう」
「はい」
俺が分解されるエフェクトをともなって転送されていく。
世界が復元されたとき、そこには広大な平原や森、青い空、湖、山脈。
それから家々と人々。
自然の世界が再現されていた。
「ここがゲームの世界」
「ちょっとデフォルメチックでしょう?」
「はい。ゲーム慣れしてると、こういうモノだと思ってしまいますが」
「そうですね。どこか現実味があるけれどゲームなんですよ」
地面に生えている草を見てみる。
テントウムシが一匹、葉っぱに留まっている。
上に移動してきて、葉っぱの先端まで登ると飛んで行ってしまった。
非常にリアリティーのある世界に見える。
「すごい、すごいです」
こんな繊細なレベルのゲームは初めてだ。
「スローライフ・ファンタジー・オンライン、です」
「なるほどなぁ」
MMOなのだろう、他のプレイヤーもときどき自分の目の前を通り過ぎていく。
もちろんNPCも多い。
二〇二二年以降のAIの繁栄。NPCのAI化はもう普通に見られるようになった。
妖精が俺の前に出現した。
全長五十センチの妖精には青いアゲハ蝶のような羽が生えている。
緑色を基調とした服を着ており、髪は金髪で目は紺碧。
セミロングのウェブヘアになっていた。
「はーい!」
「こんにちは……こんばんはかな」
「えっと、こんにちはですね!」
「そっか」
ふふふと二人で笑う。
ゲームの中なので時間感覚がよく分からないのだ。
「まず、ゲーム内の名前を決めてください!」
えっとどうしようかな。
「マリナ」
「マリナ様ですね。ということは容姿は女性ですか?」
「できるの?」
「はい、男の娘も選べますが、どちらになさいますか?」
「えっと……女の子で」
「了解です」
俺の目の前に、分身の自分のアバターがホログラムで浮いている。
俺が普通の男性アバターだったものが女性に変更になる。
「十歳くらいにしたいんだけど」
「いいですよ。もちろんです」
容姿が十八くらいだったものが十歳くらい、少し小さくなった。
「顔のお好みは、脳スキャンでもできますが、どうしますか?」
「じゃあ、このイメージで、わかるかな?」
「わかりますよ」
アクア色というのだろうか。
薄い水色のロングヘア。それに真っ青な目。
ほっぺがぷにぷにとしていて、丸い幼顔は愛嬌がある。
かわいい。
「いいじゃんっ」
「お気に召しましたか?」
「はい」
「髪の毛以外の容姿の変更は、原則アカウントの再作成が必要となっています。これで決定してもいいですか?」
「いいよ、いいよ」
「了解しました。これで確定しますね」
「では、また必要がありましたら、お呼びください」
びゅろろん。
効果音を残して、いなくなってしまう。
「ふふふ、女の子になって、スローライフ」
にっこり笑顔を作ってみる。
初期アイテムにあった手鏡を出して、それに顔を映すとかわいい。
「うむ、余は満足じゃ」
これが自分だなんて信じられない。
怪我なんてなんのその、こっちの世界で頑張っちゃうぞ。
「にゃはは」
こうして俺のかわいいマリナのアバターが完成したのだった。
次回、水汲みをするぞ。
その次は雑草を採って加工するんだ。
リンゴの木の実を採ったり、ナシ、ブドウとかも探してみる。
ポーション作成なんかもしちゃったりして。
木の伐採、石を掘るとかもするんだ。
その後は畑仕事をしたいので、農地を借りよう。
何か植える。また水を汲んで畑に水やり。
それからそれから、釣りでしょ。
釣った魚はもちろん焼き魚でしょ。
つまり焚火と料理だよね。
畑の植物が育ったら、それを使った料理もある。
ナイフを装備したら、いざゆかん。戦闘もしちゃったりなんかして。
宿屋生活もいいけれど、野営用のテントとか作業台で加工とかもしたいよね。
道具とかも自作してみたいし。
まだ初期町にいるから治安もいいけれど、外の世界は無限の可能性がある。
ダンジョンや洞窟なんかもある。
最高の自作装備を固めたら、ボスに挑戦するんだ。
なんだか楽しみになってきた。
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