第112話 待ち合わせからが旅行のはじまり。
ひかりの家で、まさかの足止めを食ったこともあり、俺たちが待ち合わせの東京駅に着いたのは約束時間ぎりぎりのことだった。
本当は、かなり余裕を持って、誰よりも早く着くつもりであった。
それはなにも、ウィンドウショッピングやカフェデートがしたいためではない。
真の目的は、場の空気を整えることだった。
「……やっぱりこうなっちゃうよなぁ」
俺とひかりが待ち合わせ場所に到着してみれば、すでに他の四人は集まっていた。
が、その実情は集まっているというか、遠目から見れば、ただ近くにいるだけという感じだ。
さながら、中学生の時の班行動レベルの緩い連帯感である。
林と三田さんとは、いつも通りの感じで喋っていた。
しかし他の二人、今里さんと千種はといえば、そのまわりにいるだけで、喋ることもない。
今里さんはじぃっと弁当屋を見つめており、千種は受験生の相棒、英単語帳と睨めっこをしている。
まぁ無理もない。
なにせ、完全なる寄せ集め集団だ。
たとえば今里さんと、林や三田さんは初対面であるし、千種は全員のことを知ってはいるが、親しくはない。
四人の姿から、なんとなく流れさえも想像がついた。
たぶん、はじめは林や三田さんが話を繋げてくれようとしたのだ。
が、今里さんは持ち前のマイペースさで、それ途切れさせてしまい、千種はそのドライさで、それを俯瞰した。
その結果、この状況が生まれたのだろう。
たぶん合ってると思う。見てないから知らんけど。
明らかに微妙な、曇り空の空気感だった。
俺はどうしたものかと思いながら、おずおず近づいていくのだけれど……
「あー、みんな、早い!!」
どうやら青葉ひかりには、そんな微妙な空気は感じられないものだったらしい。
彼女は四人の中に入っていくと、
「聖良ちゃん、久しぶり〜! 元気出してこ〜!」
まず今里さんに声をかけ、
「……ひかりさんは、本当にいつもパワフルですね」
「朝は私も苦手なんだよ? でも、今日は朝から色々あってねー。なんと旅行の準備一つもしてなかったの」
そのままの流れで、
「またやらかしたんですか」
「千種ちゃん、その蔑んだ目やめてよー。こうして間に合ったわけだし! まぁ啓人くんさまさまだけど……」
「保護者と子供ですね、完全に」
千種も会話に加える。
「おー、来たなぁ。元気印」
「で。なーに、家から来たの? またお泊まり〜? ぴかちゃん、やるね〜」
さらには、林や三田さんをも巻き込んでいくのだから、脱帽だ。
俺の心配なんて、まるでアルミ缶の如く簡単に踏み潰して、先へ先へと駆け抜けていく。
まだ、みんな仲良し作戦は考えてあったのだけれど、もしかすると余計だったかもしれない。
そう思うくらいの、打ち解け具合だ。
それに感心させられながらも、
「泊まっちゃないっての。単純に、朝一緒に行くつもりで迎えに行っただけだ」
「彼氏が言い訳って、あたしの勘では一番怪しいんだよねぇ」
「三田さん。普通に外れてるよ、その勘」
俺もその輪に加えさせてもらう。
そうして、新幹線乗り場へと向かった。
それぞれに飲み物やお菓子などを買い込んでから、すでに到着していた新潟行きの新幹線に乗り込む。
今里さんいわく、三人席を二列分まとめて確保しているとのことだった。
チケットはもうそれぞれに配られていたが、ここでどう座るかは、自由だ。
そして、これからの移動時間の長さを考えれば、ここでの席決めは結構大事になる。
俺はなんとなくベストな形を勝手に考えて、それはひかりにも来るまでの道中で伝えてあった。
「せ、聖良ちゃん、窓際行ってくれる?」
「……構いませんが。あなたが一番座りたがると思っていました」
「わ、わ、私は真ん中好きなんだよね」
相変わらずの大根役者っぷりだ。
が、それでも一応は想定通りに導いてくれる。
それを横目にしながら、俺はといえばーー
「林、奥行けよ。俺、その横に座るから」
「え。なに。青葉さんの横じゃなくてもいいのか?」
「いいだろ、別に」
こっちも少し強引に席決めを進める。
そうしてあとは想定していたとおり、ひかりの横に三田さん、俺の横に千種が座る形となった。
それに俺がひとまず安堵していたら、通路側の千種から肘で突っつかれる。
「不自然ですよ。変な気つかいすぎじゃないですか?」
と、彼女は小声で言う。
さすがに、鋭い。
知り合い同士、仲がいい同士で横になるように仕向けるという俺の意図はどうやらお見通しだったようだ。
「最初が肝心だろ、こういうのは」
「まぁ、言いたいことは分かりますよ。ついでにもう一つ当てます」
「……なんだよ」
「先生は気を回しすぎます。なにか、大勢で楽しめるようなものでも持ってきてるんでしょう?」
……しっかり図星だった。本当に、鋭い奴である。
だが別に、隠すようなことでもない。
「おぉ、そんなのあるのか? さすが気がきくなぁ俺の親友は」
林もこんなふうに乗ってくれるから、俺は手元に置いた鞄から、持参してきたものを取り出す。
それはずばり、『当たっちゃう!? みんなで楽しい診断テスト百選』なるタイトルの本だ。
「うわぁ」
との声が、千種からは漏れる。
その言葉につづきがあったわけじゃないが、何を言いたいかは分かる。
そんな俗っぽいもの買うんですね、的なそういう意図だ。
そりゃあ俺自身も思ったさ。
この手の本は、生まれてこの方、初めて買った。
その前に買ったのは、本屋で目についた文芸小説だから、まるで毛色が違う。
でも、みんなの仲を取り持つという意味では、それなりの役割を果たしてくれるはずだ。
そう思って勢い半分で、購入していた。
「おー、さすがだね、啓人くん。やりたいやりたい!」
「おー、あたしもそういうの結構好きなんだよねぇ〜。なんかくだらないのがまた面白いって感じ」
「……旅行に男子が持ってくる本。もっと刺激的な本かと思いました」
一部、今里さんだけは訳のわからない呟きをしているが、とりあえずは好評と受け止めていいだろう。
俺はとりあえず本のページを捲る。
目次をすべてすっ飛ばして第一問で目にしたのは、
『あなたの家に未確認生命体が住み着いて、毎日のように食卓に現れます。あなたならどうする? A 自分で退治して食べる B 誰かに退治を頼む C いつも通り生活する』
…………なんでこの本買ったんだろう、俺。
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