第113話 診断テストは恋愛脳?

まだ一ページ目だが、一ページ目だからこそ分かる。

たぶんこの本はだめだ。


ただもう、後に引けるような状況でもない。


「啓人くん、早く〜」

「そうだそうだ〜」


ひかりは急かしてくるし、三田さんは悪ノリしてくる。


それでしょうがなく、『未確認生命体が食卓に現れたらどうする〜』という奇天烈な問題を読み上げることとした。


一瞬、場の空気が凍りつく。

なんなら俺たちだけではなく、その周囲まで巻き込んだ気がする。


実際、近くの子どもが「ねぇ未確認生命体ってなに?」と無邪気にお母さんに聞いている。


そしてそれと同時に俺の心も少し、いや、血肉が見えるくらいにはえぐれた。

それに気を遣ったのか、


「わたしは、Aですね。食べたくはないですけど、自分で退治します」


千種がまず答える。


「んー、私はBかな。誰かに退治してもらう。わ、私、そういうの本当無理なんだよ」

「あたし、Cだ。別にそのまま暮らせばよくない?」

「……私もC」

「俺はBかな。野上にやってもらうぜ」


ひかり、三田さん、今里さん、林と順々に続いてくれた。

林の発言はともかくとして、俺はそこで自分の選択も考える。


「Aかな。さすがにそのままは無理だし、誰かにやらせるのもない」

「啓人くんは食べるの?」

「食べたかないけど、まぁ食ってやらんでもない」


ひかりとこんな会話をしてから、次のページにある診断結果を見てみれば……そこにあった文字列に俺は顔が引き攣る。

言葉にするのも憚られるそれに俺が躊躇っていると、


「へぇ、恋愛の価値観を表すんですね」


千種が横から覗き込んで読み上げる。


「Aの捕まえて食べる人は、どんな障壁があっても乗り越えちゃう人。Bの誰かにお願いする人は、理想が高めで夢みがち。Cの人は、そもそも一人で生きられる人ですって」


いきなり恋愛観なんてものが来ると思っていなかったから、恥ずかしい類の診断テストであった。

が、その回答自体は思ったよりまともではある。


「ぴかちゃん理想高いんだ〜。ってことは、野上くんはそのハードル超えたんだ?」

「別に理想高くないってば! あ、でもでも、妥協もしてないよ!? むしろ逆というか、ってなに言わせるの!!」


「ぴかちゃんが勝手に暴れてるんじゃん。今里さんとあたしが一緒ってのも面白いよね。意外と気合うかも?」

「……趣味はゲーム。特技は、華道と茶道。あと、ネバネバが好き」

「うわ、真逆だった。でも、あたしなんでもしたい人だから興味はあるかも」


さすが三田さん。

これぞギャルの力というべきか、しっかりとコミュニケーションをとってくれていた。


ひかりが間にいるのもまたいいバランスで、うまい具合に話が転がっている。


一方の後部座席はといえば、


「……俺、理想高いかぁ? いや、ちょっとスタイルよくて、可愛くて、適度に構ってくれたらいいんだけど」

「林さんには、とりあえずアイドル育成ゲームをお勧めします」

「暗に求めすぎって言ってんだろ!? 野上はどう思う?」

「とりあえずバンド育成ゲームをお勧めする」

「……てめぇなぁ!」


こちらもこちらで、なんだかんだで盛り上がる。

さらには全体でも会話が成り立っていく。


初っ端からやばい匂いしかしなかったこの本だったが、これなら意外と使えるかも?


俺がそう思って次をめくったら、


『仕事で上司に詰められた挙句、深夜残業させられたあとに食べるご飯は? A 背脂マシマシラーメン B ケーキ1ホール C あっさり惣菜パン一つ D 食べない』


一応さっきよりマシそうな問題が出てきた。


そうして採決を取ると、林と三田さんがA、ひかりがB、今里さんがC、俺と千種がDになる。


まぁまぁ想像通りの回答だったが、その結果はといえば、


「……浮気しやすさが分かるらしい」


また、この手のやつだった。

どうやらこの本の著者はかなりの恋愛脳らしい。


結果は、Aが90%、Bが50%、Cが20%、Dが0%とのこと。

0%の人は浮気をせず、別れる選択をするのだとか。


「わ、わ、私は絶対ない!! 半分の方だから!! 信じて!!」


と、ひかりは騒いで、


「ただラーメンが好きなだけの俺に辛すぎね? 浮気なんてしねーよ。これと決めたら一途なんだよ。ラーメンにも女子にも」

「あたしは……まぁノーコメントで。あ、したことはないけどねー、一応」


90%という不名誉な結果が出た林と三田さんはこう述べる。


「……背徳的という響きは好きなのですが」


今里さんは、うん、相変わらず意味が分からない。


「まぁこんなもんですよね」

「なんだかんだ、のりのりだな、千種」

「…………黙っててください」


俺と千種もこんなやりとりを交わして、それは結果的に全員での会話に発展していった。


その後も何問か出題を繰り返したが、どれもそれなりには盛り上がる。


途中で、千種が持参したチョコレート菓子をみんなに配ってくれたことも、連帯感を生んでくれた。


そうして最初よりははっきりと打ち解けたという実感を得た少し後、場に落ちてきたのは、眠気だ。


はじめに今里さんがうとうとし始めて、それで診断を中断したら、少しののち、ひかりは今里さんの方に寄りかかるようにして寝落ちする。


そのうち林も三田さんも喋らなくなって……

最終的に残ったのは俺と千種の二人だけだった。

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