第31話 信頼してくれるらしい
♢
そこからは一応、真面目にボランティア活動に励んだ。
よーく見てみれば、登山道に沿っては結構な数のごみが落ちていた。
冬の間に溜まった落ち葉にまぎれて、菓子袋や、ペットボトル、缶などが見つかる。
「うわぁ、なんか腐れてるよ……」
「ちょっ、それあんまりこっちに近づけるなよ。今、袋開けるから慎重に入れてくれよ」
俺と青葉は、苦戦しつつもそれらを一つ一つ回収していく
そうしてしばらく、袋一つが膨れ上がるくらいにはゴミが集まっていた。
袋の端と端を結び、閉じたところで湧いてくるのは満足感だ。
「ちょっと休憩しよ」
そこへこんな言葉を投げかけられたら、いくら真面目であると自認している俺だって、少しは甘えたくなる。
「そうだな、どこか座れるところでも探すか」
「うん、いいね、それ! お菓子持ってきたんだよね。一緒に食べよ?」
青葉はそう言うと、背中のかばんを開けて、いくつか袋を見せてくれる。
ポップコーンに、ポテトチップス、チョコレートなど、そのかばんの中はまるで……
「遠足に行く小学生じゃねぇか」
「なっ、違うよぉ。小学生なら、こんなにお菓子かえないもん。値段制限絶対にオーバーしてるし。だからこれは、大人のかばん!」
「……言ってて、恥ずかしくならないのかよ」
「ならないよーだ!」
俺たちは賑やかしく喋りながら、登山道に沿って斜面を下る。すると、しばらくしたところで少し先から川音が聞えてきた。
「そういえば、たしか地図にも川が載ってたね」
「うん、ちょうどいいんじゃないか。休憩するには」
「だね! そうだ、石投げでもしよ? 水切り!」
「……やっぱり青葉さんって、しょう――」
「華のJDだよ!!」
俺たちはごみを集めながら、川の方へと近づいていく。
最後に急な階段を下ると、綺麗な小川が目に入ってきた。
川は、少し低いところにあった。
そこまでは階段が用意されており、手すりまで設置されている。
そして川べりには、ベンチもいくつか置かれている。
たぶん、山登りの途中で訪れる人もそれなりにいるのだろう。
「イイ感じじゃん! やっと山登り感が出てきたよ!」
「……ボランティア感はどこいったんだよ」
「まぁまぁ、一休みだよ。とりあえず、あそこに置いてあるベンチで少し休憩を――」
と、青葉がそこで言葉を止めた。
そして同時、顔を青くしながら右腕を上げていき、少し下に見える川を指さす。
「なに、どうしたんだ?」
「ねぇ野上くん。あれ、大変だよ……!」
その先では、川の真ん中にある小さな小島の上で子猫が丸まっていた。
身体を濡らしているらしく、がたがたと震えている。
「らしいな。水遊びしてたって感じじゃなさそうだし」
川の流れは、山の中腹あたりということもあり、それなりに急だ。
あの場所から岸まで渡れるかといえば、難しそうであった。
「野上くん、あれ、どうにかならないかな」
「まぁ、とりあえずやってみるしかないだろ。俺たちのほうがおぼれないようにしながら、な」
俺と青葉は、とりあえず階段をくだり、ごろごろと大きな石が転がる道を、川のへりまで行く。
近くで見てみれば、子猫のいる小さな岩までは少し距離があった。ここから手を伸ばして、届くような距離ではない。
確実に川の中に足を踏み入れる必要があるが、川の流れは決して穏やかとは言えない。
安易に足を突っ込もうものなら、流されかねない。
俺は少し躊躇していたのだが、彼女は違った。
すでに荷物はすべて置いていた。両の靴を、足先をこするようにして脱いで、手でするっと靴下を足元まで下ろす。
そのほっそりとしつつも、健康的なしなやかさを持って、太陽光をはじく白い足に目をとられて少し、俺は頭をぶんぶんと振る。
「おい、行くのかよ。流されたらどうするんだよ」
「大丈夫」
「どこにそんな根拠が……」
「野上くんと一緒にいるからだよ。君がいたら、大丈夫。ほら」
そう言うと彼女は、こちらに右手を差し出してくる。
そうしながら、足はもう川に突っ込もうとしていた。
要するに俺が支えたうえで、彼女が身を乗り出して、猫を抱えてくる。
そういう作戦なのだろう。
そして青葉は、俺が支えてくれると確信しているらしい。
ならばと、俺はその手をしっかり掴んだ。
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