第22話 美少女ちゃんが一人暮らしする家に侵入者?



ボウリングの結果、無事青葉とペアになることが決まったその夜。


俺はベッドの上で正座をしながら、スマホの通知画面をただただ眺めていた。

もう日付が変わる時刻だ。


明日は一限から授業があるし、早く寝た方がいいことは間違いない。が、しかしこの状態ではベッドに入ったところで安らかに眠れない。


そのわけは、さっき届いたとんでもないメッセージのせいだ。

それはまさに寝ようとしていたところへ、夏のゲリラ豪雨くらい唐突に襲いかかってきた。


『最近どうなの? 元気?』


と、こんなふうに送ってきたのは、スパムアカウントでも、最近疎遠になっている友人でもない。


人生初めての彼女にして、ついこの春まで付き合っていた元カノ、明日香からのメッセージであった。


一方的にされていたブロックは、いつのまにか解除されたらしい。


「……あいつ。なんなんだよ、急に」


返すべきか、返さざるべきか。

俺は既読をつけない状態で考えこむ。


あれだけ無理やり振った相手に、こうしてメッセージを送ってくるのだ。

なにか大きなきっかけがなければ、ありえない。


そしてそれは間違いなく、昼間に彼女のSNSで見た愚痴と同じ。

要するに、あのチャラい風貌の同級生に振られたことがその理由なのだろう。


急に寂しくなったりでもしたのかもしれない。



……あまりにも勝手な話だ。

こっちはどん底に突き落とされたところから、やっと這いあがろうとしているというのに。



普通に考えて、返す理由はない。

あれだけ一方的に関係を切ってきたのだから、こちらが無視するのも許されるはずだ。


俺は込み上げてきた暗い気持ちからため息をつき、一度スマホを閉じる。


が、返さないことに後ろめたさがないわけじゃなかった。

結局どこかでは気になってしまう。そういう性分なのだ、俺は。


だから、俺はまたスマホを手にして、メッセージ通知と睨めっこ状態になる。


そこで、急に着信音が鳴った。



俺は驚き跳ねて、スマホを床に放り投げてしまう。


まさか、明日香が電話してきた……? だとしたら、どうする?

出るか出ないか、出たところでなにを話すんだ。


ごくりと息を呑みながら精一杯に頭を巡らせるが、いざ画面を見てみたら表示されていたのは『青葉ひかり★』の文字だ。


俺はもう何度目か、深いため息をつく。

ほっとしつつも、とりあえず電話に出る。


そういえば青葉と電話するのは初めてだ、とか悠長に思っていたら


「野上くん、たすけて!!!!」


その第一声で、耳をつんざくみたいな、悲鳴混じりの叫び声が聞こえてきた。


その声は震えており、かなり切実なものを感じる。明らかに切羽詰まっている。

明らかにただならぬ状況に置かれているらしかった。


「ど、どうした!? 今、どこにいる!?」


また、変な連中に引っかかったのかもしれない。

あのひどい酒盛りの現場がよぎり、俺が焦って問い返せば、彼女は「家だよ」と震えながら答える。


「でも、侵入者がいるの」


それは、あまりにもとんでもない話だった。

飲み会で酒を盛られた次は、住居侵入って。


「は!? お前はどうしてるんだよ」

「クローゼットの中に逃げてきてる! でも、もう無理かも! こっちに近寄ってくる、ひっ……」

「クローゼットに逃げたって、そんだけ大声出してたら意味ないだろ! 声顰めて隠れとけよ、ってもう意味ないけどさぁ」

「だって〜!! 怖いものは怖いんだ!! って、もうきた、来てる、うわ入ってきた、きゃあぁ!!」


一体どんな状況なんだ。

全くわからないが、緊急事態ならば無理もない。


俺は耳をつんざくような悲鳴を発するスマホを握りしめ、玄関まで駆けると急いで靴を突っ掛ける。

前に彼女を家まで送ったときは、スマホを持っていなかったから家の正確な場所は分からない。


それでも、じっとはしていられなかった。


「おい、青葉! 今からすぐそっちに――」


外へ出て鍵をかけながら、こう言いかけたところで、


「うわ、入ってきたっ!! やめて、出て行け〜! Gなんか大嫌いだ、黒い悪魔、うわぁぁん!!!!」


悲鳴の真相を知った。


……うんまぁ、そうだよね。

そんな展開もよぎったとも。


「よかったよ、それで」

「よくない!!!!」


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