第20話 二人でペアになるために。

ごみ拾いのペア決めを行う闇の戦い……ではなく、ボウリングを行うため。


俺たちサークル・ティアナは、大学近くにあるという決闘会場……ではなくボウリング場へと来ていた。


「たしか全体で見て、一位とビリ、二位とブービーっていうふうに組んでいくことになるんだよね」

「そうそう。男女関係なしにな。まぁ誰とになってもいいけど、ボウリングは楽しみだよなぁ」


先輩たちの会話を聞きながら、なるほどと俺は理解する。


一位になったからって、相手を選べたりするわけではないらしい。

となれば、決闘・取り合いというよりは、単なる運ゲーだ。


単純に楽しんで投げられればいいか。


そんなふうに思いながら、先輩により振り分けられたレーンへと向かう。

一年生同士の組み合わせになるよう配慮してくれてはいたが、一年生だけで十人以上はいた。


そのため、青葉とは別のグループになっていた。


「おー、野上と一緒かぁ! いいねぇ、俺のこと覚えてるっしょ、新歓の時に話した林なんだけど。経済学部の」

「あぁ、えっと。俺と青葉がどんな関係なんだって聞いてきたよな、たしか」

「名前覚えてないのに、余計なことだけ覚えてやがる……!」


ソファ席に座り、同級生・林と会話を交わす。

そういえば、こんな奴もいたなぁと朧げに思い出していたところで、頬になにかが触れたような気がした。


なんだと思ってソファの手すりを見てみれば、そこには小さく丸められた塵紙が落ちている。


そして、それが飛んできただろう方向を見れば、こちらを見ていた青葉がとんとんとスマホを叩く。


それで俺も引っ張り出してみれば、何件か通知が来ていた。


『作戦会議しよ。どうやってペアになろっか』

『やっぱり運に頼るしかない? お祈りしながら投げればいいかな?』


……何を言ってるんだろう、こいつは。


俺は一度顔を上げるが、視線の先にいる青葉はまたとんとんと、スマホを叩く。

あくまで他人には秘密であり、会話を交わすつもりはないらしい。


『そんなことしたって意味ないだろ。ただのゲームだし、せいぜい後でペア交換依頼するしかないんじゃない?』


というか、だ。


『そこまでして俺とペアにならなくてもよくないか?』


思っていたことを率直に書き記す。

すると帰ってきたのは、パンダが怒り顔になってムキムキの筋肉を見せつけている謎のスタンプだ。


ふと後ろを振り返れば、青葉もぷっくり頬を膨らませて同じ顔でこちらを見る(ちなみに、筋肉をむきむきにはしていない)。


なんだよ、まじで。


そう俺が思っていたところに送られてきたのは、『リスト』の三文字であった。

はっとして、『青春をやり直す! やりたいことリスト』を開き、やっと合点がいく。


そこには『二人で山登り!』の項目がある。


たしかに、今回はごみ拾いがメインだが、一応は山にも登る。

とはいえ、別の機会でもよさそうなものだが、あの顔を見るに簡単には引かなさそうだ。


なにせそうこう考えている間にも、怒りパンダが送られてきてるし。


「どうした、野上。母親とラインか? 先始めてていいよな」

「中学の時の友達が急に連絡してきてな。俺、ラストの4番目にしてくれ」


俺は、林との会話を適当にいなす。

一応嘘はついていないから許されるはずだ。



ため息をつき、改めて今回のペア決定にルールを振り返る。

そして、一つだけ単純かつ確実な方法に至って、書き込みをする。


『どっちかが一位を取って、どっちかが最下位になれば、ペアに決まるんじゃないか』


……達成難易度は、かなり高いが。


これだけは唯一、他の人間の順位を気にすることなく、実践できる。


『なるほど! さすがすぎるよ、野上くん! ナイスアイデアだ! パンダさんもにっこりだよ。その作戦で行こう!』

『乗り気ってことは、ボウリングうまいのか青葉さん』

『え? 昔やった時は、1ラウンド投げて5点だったよ。最下位は任せて! センスないんだよねぇ。友達が気を遣って、ガターのところ、上げてくれたくらい』


うん、まぁそんなことだろうと思ったけども!

それにしたって酷い成績すぎるだろ。


俺は呆れてまた青葉を見ると、小さくVサインを見せていた。



一応、俺はといえば別に下手ではない。

高二の頃は友達と地元のボウリング場に通い詰めて、常連じゃなければなれないゴールドプレミアムスペシャルカード会員になったこともある。


ベストスコアも、250ちょうどだ。


とはいえ、すべては過去の栄光だ。

去年は受験勉強に全てを費やしたので、一切行っていない。


もちろん、会員証もノーマルに逆戻りしている。


だが、それでも青葉が俺に期待をかけてくれているのなら、言い訳するのもよくない。


『やるだけやってみる。一位、狙うよ』


俺はこう返事をして、スマホを閉じる。


「おい、野上。順番きたぞ〜。メッセージは終わったか」

「あぁうん。やるよ」


ちょうど呼びかけてきた林に応えて、席を立ち上がった。


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