第13話 明日はどこ行こっか?
新歓コンパが終わったのは、開始から約4時間後の十時ごろだった。
その頃には、先輩たちの酔いがかなり回っていたこともあろう。机の上は空の酒や、つまみの容器が散乱していた。
「片付けは、任せておくといい。もし少しでも気に入ったらぜひ我がサークルに入ってくれ」
「……うん。この酔っぱらいたちの処理も任せて」
しかし、長野会長と静岡副会長はこう言ってくれて、半ば強引にマンションの一室から追い出される。
それから俺たちは全員で、最寄である御茶ノ水駅を目指した。
「楽しかったなぁ今日。ここ、みんなで入っちゃう?」
「ボランティアって就活の評価にも良さそうだし、そういう意味でもアリだよなぁ」
たった数時間とはいえ、結構打ち解けたこともあった。
みんなで今日の感想を口々に言い合う。中には、連絡先の交換なんかをしている連中なんかもいた。
なんだか、大学生らしい瞬間だ。
昨日の今日とは思えないくらい、立派に大学生をやれている……! 少なくともそんな気がする。
なんて、俺が勝手に自己満足していたら、またしても袖が引かれた。
「だから伸びるって……」
こんなことをしてくるのは、青葉しかいない。
俺が振り向くと、彼女はもう片手で腹をさすりっている。
「うー。ちょっと食べすぎたかも。お腹痛い」
昨日は酒で頭痛、今日は食べ過ぎで腹痛とは、これいかに。
「自業自得だ。なんであんな無理して食べたんだよ」
「だって、野上くんの料理美味しかったんだもん。残すのもったいないじゃん?」
「だからって限度があるだろ」
褒めてもらっているが故に、責めづらい。
俺はため息をつきそうになりつつ、辺りを見回す。
コンビニを見つけたところで、近くにいた男子に声をかけてから、青葉とともに新入生の輪から抜けた。
店内に入り、青葉はすぐに洗面所へ向かう。
俺はお茶を買って、外で彼女を待つ。
しばらくすると、青葉は店から出てきた。
その顔色はさっきより格段によくなっている。
「少しは飲んどけよ。常温のやつ買っといたから」
俺はこう言い募りながらも、青葉にお茶のペットボトルを手渡す。
「……気がきくね。あとでお金は返すね」
「これくらいいいよ。自分のお茶買うついでだ」
「じゃあ、ありがたくいただいとく。なんだか助けてもらってばっかだね」
「それはお互い様だっての」
他の新入生たちの姿は、とうに見えない。俺と青葉は二人、夜道を並んで歩き出す。
「それにしても楽しかったね、今日のサークル! 本当に入ってもいいかもね♪」
青葉の腹痛はどうやら完全に治まったらしい。
その足取りも、声もいつもの軽快さを取り戻していた。
「……俺も、そう思うよ。一年の連中も、先輩も、みんないい人だったと思う」
「まぁ少なくとも昨日よりはよかったことは間違いないね。あんなに端のブースにあるには、もったいない! 野上くんが見つけてくれてよかった」
「まぐれだ、まぐれ。色々制約があったからな」
「たしかに。でも、おかげで程よく絞れていいのかも! ね、明日はどこ行こっか?」
「そうだなぁ……」
と、生返事をしてから気づいた。
……ん、明日?
「青葉さん。明日も俺とサークル回るつもりなのかよ」
「え、私と回らないつもりだったの、むしろ。めっちゃサプライズだよ、それは」
「いや、なにも言われなきゃそのつもりだったけど」
「なんで〜、この流れは明日も一緒に探す流れでしょ!」
「そんなことしてたら、大学生活ずっと俺に会う羽目になるけどいいのかよ」
「いいじゃん。なにがダメなの?」
ダメというわけじゃない。
俺だって青葉といれば、楽しいこともあるし(もちろん困ることもあるが)、色々と助けられもした。
なにより彼女はどん底にいる俺に彼女は光を見せてくれた。その光に導かれていけば、いつか俺だって完全に暗闇の底から脱せるのかもしれない。
だが、だからこそだ。
俺は光をくれた彼女の人生を、自分のために縛りたくない。
「……いいんだぞ、俺のことは気にしなくて」
「え?」
「そのまんまの意味だ。青葉さんは青葉さんの好きにすればいい。
昨日も言ったろ。俺が青葉さんを助けたのは、あくまで俺の事情だ。別に恩に感じて、親切にしてくれなくてもいい。というか、忘れてくれ。俺は俺でなんとかやるから」
これが、嘘偽りのない本音であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます