第11話 一対一の会話
「えっと、俺の場所はここでいいのですか……?」
つっかえたうえに、変な喋り方になってしまった。
「うん。青葉さんの発案で、一年生は一対一で話す時間作ることになったんだ~」
いや、たしかに多人数が苦手とは言ったけれど!
だからといって、いきなり知らない女子(それも金髪、ピアス、肩出しのイケイケ)と一対一になるほうが難易度は高いだろ、普通!
俺は、別の女子と楽しそうに会話する青葉に心の中で突っ込みをいれる。
それからすぐに、どうにか笑顔を作った。
「なに、緊張してる? 同じ一年だし、敬語とかなしの方向でいいし」
「あ、じゃあそうさせてもらいます……」
「いや、固すぎだし!」
このままではまずい。
どうにかしなければ、地獄の空気が訪れる。
「えっと、出身はどこなんだっけ」
これでも精一杯だった。
なんてことのない安パイな話題を切り出してみる。
ちなみにネタ元は、入学式前に漁ったネット記事『これで、あなたも人気者! 初対面で会話に詰まった時の話題8選!』だ。
信頼度はかなり低かったのだけれど……
「うちは名古屋! って言っても、田舎の方やから、家の周りは森みたいな環境だったけど」
「……あ、俺の実家も一緒だ。山を切り開いた場所に建ってる」
「でら大きい猪とか出たりする?」
「する、割と頻繁に」
これが、思いのほかうまくハマった。
実家近くに張り出されていた「クマ注意!」の張り紙の写真を見せたりしたら、話がいろいろな方向へと転がっていく。
「あ、じゃあそろそろ交代しよ」
青葉がこう声をかけてくれるまで、話が途切れることはなかった。
そういえば、会話ってこういうものだった。
難しく考えなければいいだけだ。流れにまかせて、ちゃんと声を出せば話にはなる。
そう思うことができてからは、そこそこマシに会話をできたと思う。
「それで、君は青葉さんとどういう関係なの? 彼女? だとしたら、やばくね? 捕まえた方法教えてくれよ〜」
なんて、同じ新入生に妙な勘違いをされても、
「おいおい、そう見えるか?」
「いやぁ、悪いけど見えないかも」
「正解だ。ただの腐れ縁だっての」
こんな軽快なやりとりを交わすことに成功する。
「一年、面白そうなことやってるな。俺たちも参加していいか?」
そこへ先輩たちが混じってきても、それは変わらなかった。
なんとなくだけれど、話ができているという実感を持つことができていた。
『これで、あなたも人気者! 初対面で会話に詰まった時の話題8選!』の記事と、計らってくれた青葉には感謝しなければなるまい。
そうして、ひととおりペアが回っていく。
最後に、青葉と一緒になった。
「なんだ、話せてるじゃん。余裕?」
「……余裕でもないよ。戻ったら急に変な企画始まってるんだ。驚いた」
「あはは、それは謝る。でも、ちょくちょく見てた感じ、よさげだったよ。ボケのキレは、75点くらいだったけど」
「……だから芸人かよ。でもまぁ、ありがとうな」
「いいんだよ〜。でもまぁ、ちょっと思った以上に話せてたかもね。とくに、女の子とも」
「そこまでじゃないだろ。たしかに盛り上がったけど、たまたまだ。田舎同士だったからで……」
って、なんで言い訳してるんだ、俺。
「ふーん。もうちょっと、きょどってくれたほうが面白かったのに。私以外とも普通に話せるとかつまんないし……」
と、最後に向かって彼女は口を尖らせて、声のトーンも落ちていく。
どうしたのかと思ったら、すぐにぺかっと光り輝く眩しい笑顔が戻った。
「……なんてね! よかったよ、ほんと。この調子で、みんなの前でも100点のボケ目指そうね」
「もう同じツッコミはしないからなー」
「えーー!! 待ってたのに!!」
暗い表情に見えたのは、気のせいだったらしい。
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