第10話 人間不信?
たまたま見つけたボランティアサークル・ティアナ。
食べ物につられて、話を聞いてみたら、そりゃあもう驚くくらい熱烈に歓迎を受けた。
「俺は、長野 勝だ。3年で、このサークル・ティアナの会長を務めている。それから、こっちは副会長の静岡朱莉だ。
県名コンビだと覚えてくれたらいい。心の底から来てくれてありがとう! ぜひ話だけでも聞いていってくれ」
会長に至っては神妙な顔を作って、俺に握手を求めてくるから戸惑いつつも、俺はそれに応える。
ちなみに青葉とも同じように握手を交わそうとしていたが、それは「わきまえなさい」とのひと言で、静岡副会長が諌めていた。
その後、俺たちはサークルの活動内容について説明を受ける。
過去に行ったらしい活動の一部を紹介してもらい、主に会長から熱弁を振るわれた。
「ぜひ受け取ってくれ」
どうやら、とどまる所を知らない人らしい。
いきなりサークルのユニフォームらしいシャツを一度渡されたのだが、
「まだ入るって決まってないから」
それも副会長の静岡先輩が止めてくれる。
そんなふうになんだかコントじみた会話をしていると、どうやら時間がきたらしい。
俺たちは先輩二人に連れられ、新歓会場へと移動する。
その場所はよもや、高層マンションの一室だった。
「兵庫の山奥じゃ考えられないよ。貸し出し用のパーティールームだなんて。都会、すごすぎないかな」
青葉と全く同じ感想しか出てこないから、俺はただただ首を縦に振る。
「そうか? 東京なら普通なんだが」
と長野会長は言うが、田舎者の俺には全くそう思えない。
エレベーターに乗るだけで、その速さに思わず「おぉ」と声が出る。
案内された部屋の内装も、立派なものであった。
最も広いメインルームには長机がどんと置いてあり、二十人以上が集まっても狭さを感じない。
そのうえ、超特大テレビやソファ席まで据え置かれてあるのだ。
それに目を取られつつ、俺と青葉は隣り合わせの席に着く。
どうやら俺たちの到着が最後だったらしい。
新入生で固められた席に着くなり、まずは会長からの挨拶がはじまった。
「本当にこのサークルに気付いてくれて、また今日この場所に集まってくれてありがとう……!」
長く、熱すぎるトークだった。
申し訳ないとは思いつつも、俺は半分右から左へ聞き流す。
他の新入生の中にも、明らかにぼーっとしていたり、ちらちら青葉の顔を盗み見ている男もいた。
こんなところでも、やはりその美貌は注目の的らしい。
まぁそんな青葉の視線はといえば、並ぶ料理に釘付けだったわけだが。
彼女は俺が見ているに気づくと、なにやら口をぱくぱくさせる。
解読するに、伝えてきたのは「おいしそう」という五文字だ。
なんてのんきな奴だろう。
そんなふうに思っているうちに、いつのまにか会長の話は終わっていた。
それから健全にソフトドリンクで乾杯をしたら、いよいよ歓迎会がはじまる。
最初の難関、自己紹介は前々から考えていたものがあったから、無難に終わったのだけれど、
「この前、入学式の時に変な奴に出くわしたんだよ。それがさ、ピエロのお面被ってんの」
「あはは、なにそれ。浮かれすぎじゃない?」
いざ会話になると、なかなか入っていけない。
先輩たちの配慮で、新入生で固めてくれていて、話しやすい雰囲気はあった。
しかも青葉が話を回しており、時には話題を振ってもくれるのだけれど、上手くは応えられない。
ひたすら、料理をゆっくりと食べて間を持たせる。
そうして俺がただただ場の空気に合わせていると、不意に青葉から脇腹をちょんとつつつかれた。
彼女はそのすぐあと「ちょっと手洗ってくるね~」と言って、席を立った。
どうやら、「来い」ということらしい。
俺が少し間を開けてから洗面所へと向かうと、そこで青葉はなぜか仁王立ちだ。
腰に手をやり、大股を開いている。
「なにやってんだ、青葉さん」
「それはこっちのセリフだよ。びっくりするくらい黙ってるじゃん。どうかした? 楽しくない?」
やはりその話だった。
俺は頭に手をやりつつ、正直に答える。もう、青葉に隠し事をしてもしょうがない。
「……なんというか俺、人間と話せなくなってるかもしれない」
そもそも俺は、結構人見知りをするほうだ。
初対面での会話はそれほど得意じゃない。
そこに例の事件が起きて、より拍車がかかっているのかもしれない。
一日で、人間の怖さを知りすぎた。
「なに言ってるの、私とは話せてるじゃんか。しかもちゃんとボケられてて、ツッコミも的確じゃん」
「芸人みたいな評価軸だな、おい。……というか、青葉さん相手はなんか違うだろ」
「え、私も立派に人間だよ?」
「いや。青葉さんの場合、限りなく超人だと思う」
普通の人相手なら、ここまですべての事情を話すこともなかっただろう。
それはとりもなおさず、青葉ひかりが誰の懐にでもするりと入り込む特殊な人間だからだ。
「それに、一応はもともと知り合いだろ。地元も同じなんだから」
「んー。そっか、そういえばそうだ。初対面とは違うよね」
「そもそも大人数の会話は苦手なんだよ。だから俺のことは気にせず、楽しんでくれれば――」
言おうとしていたのを、食い気味で遮られた。
「そういうことなら、私にお任せだ!」
青葉は親指を立てて片目を瞑ると、鼻息を荒くして席へと戻っていく。
嫌な予感がしつつも、少し遅れて戻ってみれば、そこでは席替えが起きていた。
俺の隣、青葉が座っていた席には、別の女子が座っている。
……いらぬ配慮をしてくれたらしい。
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