第3話 ヤリサー男に金的の制裁を!
改札を出て、駆け足で大学構内へと戻る。
まだ校内では、サークル勧誘が続いていた。さすがマンモス校だ。とんでもない熱気はいまだに冷めず、構内の大通りは人でごった返している。
しかし、青葉が連れていかれたサークル・コスモスは、すでに校内には残っていなかった。
どこを探してもその旗は見当たらない。
そこで俺は思いついて、SNSで検索をかけた。
すると、検索にヒットしてくれる。
どうやらサークル・コスモスは今日、花見を行うつもりらしかった。
それ以上の情報はなかったが、Google先生いわく、このあたりで花見をする場所は、そう多くない。
俺はとりあえず、一番近場にある公園へと足を向ける。
そこは小さいが、桜の名所らしかった。
たくさんの人がひしめく合うように、地面にシートを引いて花見をするなかを、俺は早足で駆け抜けるが、青葉の姿はない。
が、ここまでやった以上、諦める選択肢はなかった。
俺は検索もフル活用しながら、花見スポットを渡り歩く。
がしかし、数時間やっても見つからない。
追い打ちをかけるように空は暗くなり、しかもそこで携帯の充電が切れてしまった。
「なんでこんな時に……!!」
一気に当てがなくなり、俺は悔しさから唇を噛む。
現金はほとんど持っていなかったから、充電器を借りることもできないのが痛かった。
スマホがなければ、この大都会・東京は、兵庫の田舎者からすれば、魔境だ。
電車も複雑に入り組んでいるし、地名だってテレビで聞いたことはあれど、どこも行ったことはない場所ばかりだ。
花見会場の真ん中、俺は狼狽して、ただ右往左往するのだけれど、そこで一つの会話が飛び込んできた。
「なんか上野の花見会場、大変なことになってるらしいよ」
「あぁSNS見たよ。桂堂のサークルがすごい酒盛りしてるんだろ。新入生かわいそうだよな」
と。
俺はそれを耳にするやすぐに、御茶ノ水駅まで引き返した。
もっと近くに駅があったのかもしれないが、今は迷っている時間が惜しかった。
電車を乗り継ぎ、上野で飛び降りる。
案内を頼りに、どうにか公園のほうまで向かえば、そこは花見客でごった返しになっていた。
俺はそこをかき分け、青葉の姿を、サークル・コスモスを探す。
そうして、それらしき団体を見つけた。
桂堂大学の校章が描かれたシャツを着ている連中が混じっているから、間違いない。
「なんだよ、これ」
思わず絶句するくらい、ひどい有様だった。
引かれたシートの上は酒や食べ物が散乱してぐちゃぐちゃ、まだ日が暮れたばかりというのに酔いつぶれて倒れているものもいるし、抱きつきあっている男女もいる。
そんななか青葉の姿を探すと……まさしく最悪の状態になりかけていた。
「ひかりちゃん、潰れちゃったんだねぇ。じゃあ俺がいいところに連れて行って、楽にしてあげるよ」
「やめ、て…………」
「はんっ、やめるわけないだろ。せっかくこんな上物、捕まえたんだ」
筋骨隆々とした先輩の背に担がれ、まさに連れて行かれようとしていた。
しかも、青葉自身はぐったりとしており、ろくに抵抗できていない。
その腕はだらんと垂れており、顔も異常なくらい真っ赤だ。
たぶん、酒をかなり飲まされたのだろう。
正直、かなり怖かった。
ぞくと身体が芯から震え、恐怖がわき起こってくる。
俺は、ひたすら安全な道を選択して生きてきた。
あぁいう荒くれた人間とは関わらことを避けるように、これまで生きてきたのだ。
けれど、ここまできて逃げ帰る理由はない。
俺は震える手を固く握りしめ、男の前に立ち塞がる。
「その子を下ろせ」
「……あぁ? なんだてめぇ。辛気臭い顔した男だなぁおい。まさか、ひかりちゃんの彼氏……って感じでもなさそうだな。陰キャっぽいし。とりあえずどけよ、俺は今からお楽しみなんだ。ホテルも予約してんだ。どけ」
……ゲスにもほどがある奴だ。
こいつ自身も酔っ払っているのだろう、欲望を隠しきれていない。
「邪魔だてするっていうなら、どかすまでだ」
ぐったりと力が入らない様子の青葉を地面へと下ろし、男はこちらへと殴りかかってくる。
まったく正常な判断ができない状態らしい。
普段なら、そのままボコボコにされて終わりだったかもしれない。
俺は別に鍛えていないし、強くない。が、相手が酔いどれならば、話は別だ。
俺はそのタックルを躱して、男の後ろをとる。
それから、股間に蹴りを入れてやった。
できるだけ強く、躊躇なくだ。
こんな奴相手に手加減をしてやるほど、お人好しではない。
それに、今の俺は……
「ふざけんなよ、下衆。ただでさえイライラしてんだよ、こっちは。どこぞの馬の骨に、彼女取られてな」
直接関係はなくとも、ついついどこにも当て用のなかった私怨がつい乗ってしまう。
だがまぁ、これくらい仕方がない。こうでもしなきゃ、やってられない。
男がなおも襲って来ようとするから、俺はもう一度股間に蹴りを入れる。
そうして容赦なくやった結果、
「う、うぉ……」
男は見るも無惨な様になっていた。
股間を押さえながら、地面に膝をつき、そのままばたりと顔面から崩れ込む。
こんなふうに喧嘩まがいの真似をしたのは何年ぶりだろう。
俺は動悸がする胸に手を当て呼吸を落ち着ける。
それからすぐに、青葉のことを思い出した。
「悪いけど、少し連れて行くぞ」
ここに置いておくのは危険極まりない。できるだけ離れなくてはなるまい。
俺はどうにか彼女を背に負うと、その手に辛うじて握られていた小さなカバンを首にかけ、その場を離れる。
それから、公衆電話を使って警察に連絡も入れておいた。
あんなめちゃくちゃな状況、俺一人でどうにかできる話ではない。
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