一緒に登校

次回以降は9時のみの更新です!( ̄^ ̄ゞ


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 一時はどうなるかと思っていたが、なんとか試験までに意識を取り戻すことに成功。

 ユーリの家から国一番のアカデミーがある場所までは片道三十分という程よい距離にあり、仲良く一緒に談笑しながら行くにはちょうどよかった。


「いやぁー、まさかユーくんと一緒に通学できる日が来るなんてなぁ」


 隣を歩くアリスが上機嫌な様子でそんなことを口にする。

 本来であれば、本日は入学試験のため在籍生徒はお休み。しかし、試験監督を務めることになった二人は休日登校となっていた。

 普通は休日返上で登校など嫌がりそうなものなのだが、今のアリスにそんな様子はない。本当にユーリと一緒にアカデミーに行くことが嬉しいようだ。

 その証拠に、両隣にいるアリスとセリシアの手は見事にユーリの手を握っている。加えてピタッとくっつくほど肩も寄せており……今日も今日とて、相変わらずの甘えん坊さんだ。


「って言うけどさ、普通に試験に落ちる可能性だってあるわけじゃん。そもそも、平民の僕は特待生枠なんでしょ? 特待生枠っていうだけでハードルが高そうな予感」

「んー……そこのところどうなんだろ? 特待生枠ってカレラちゃんとロニエちゃんだけだし、試験内容的にはハードなのかな?」


 一応の話だが、アリスとセリシアは貴族の家での生まれだ。

 といってもそこまで爵位が高いわけではなく、アリスもセリシアも子爵。

 しかし、貴族は貴族。ユーリも初めは敬語で接していたのだが「いーよいーよ、私そういう堅苦しいの苦手だし」、「ふふっ、カレラさんの弟さんに畏まられたくないですから」などと言われて今に至っている。

 それに、そもそもいつも過保護で振り回され、ヒシヒシと「大好き♪」オーラが出ているので、正直敬うなどといった気持ちは勝手に消えていった。


「そうですね……まぁ、よくも悪くも難しいですよ。平民が入学金や授業料免除で入るともなれば、アカデミー側は『育てる気にさせるそれ相応』を求めますから」

「うげぇ……ごめん、姉さん。弟は静かに余生を過ごすよ」


 どこにいるかも分からない姉に向かって諦めムードを見せるユーリ。

 すると、横にいるセリシアは上品な笑みを浮かべた。


「ユーリくんなら大丈夫ですよ。そもそも、あなたが入学できなければ特待生枠の合格者はほぼゼロになっちゃいます」

「いやいや、そんな図太い自信と根拠は持てないって。でも、励ましてくれてありがとう」


 少し元気が出たのか、気合を入れるようにユーリは一回頬を叩く。

 そんな姿を見て───


(いえ、普通に事実なのですが……)

(試験でやらかさないか心配になってきたよ)

((入学したら変な虫が寄らないよう四六時中一緒にいなきゃ……!!))


 ───二人は内心でひっそり決心を固めるのであった。


『ね、ねぇ……あそこにいるの、聖女様じゃない?』

『うわっ、嘘! 剣聖様までいる!』

『俺、剣聖様に憧れてアカデミーに入るんだよなぁ』

『っていうか、あの真ん中の男の子って誰……?』


 入学試験がある日だからか、アカデミーまでの道のりには受験生の姿がチラホラ見える。

 故に、アカデミー内外でも有名な二人は必然的に注目を浴びてしまう。

 だが、ある意味注目を浴び慣れている二人がそんなことを気にするわけもなく。


「ユーリくんとの学校生活、本当に楽しみですね!」

「そう?」

「そうですよっ! だって、一緒に通うってことは───」



 ♦♦♦



「セリシア姉さん……僕、分からないことがあるんだ」

「どうかされましたか、ユーリくん? お姉さんになんでも聞いてください……アカデミーのことも、聖書のことも。そ、その……それ以外のこと、でも」

「セリシア姉さん……じゃあ、いいかな?」

「ユーリくん……」


 〜Fall in Love〜



 ♦♦♦



「そ、そんな……キスは、まだ早いですよぅ……」

「待って、何この最後の一文?」


 顔を赤くしてクネクネするセリシア。

 脳裏にはピンク色の学校生活が広がっていた。

 一方で、反対側を歩くアリスは何度も頷いている。


「ふっふっふー……分かるよ、セリシアちゃん。ユーくんとの学校生活は───」



 ♦♦♦



「あ、相変わらず凄い剣戟だよ、ユーくん……!」

「そりゃ、アリス姉さんよりも強くならなきゃいけないからね。毎日放課後居残りで練習もするよ」

「どう、して……?」

「だって、アリス姉さんをこれからもずっと隣で守っていかなきゃいけないし」

「ユーくん……」

「アリス姉さん……」


 〜Fall in Love〜



 ♦♦♦



「ぐへへ……ユーくん、ストレートすぎるよぉ……」

「だから最後の一文は何!?」


 またしてもお隣で頬を染めながら悦に浸る美少女。

 お二人の想像する学校生活は、なんとも楽しそうであった。


「はぁ……もうなんでも想像してくれて構わないけどさ、だらしない顔だけはちゃんと戻してね」


 一緒に並ぶの恥ずかしいし、と。

 ユーリはため息をつきながら、触れないようにそそくさと前を歩き続ける。

 その時、ようやく我に返った二人は何やら小声で呟き始めた。


「(ハッ! でも、ユーくんがアカデミーに通い始めたらモテモテになっちゃうんだった!)」

「(そ、そうですよっ! もし、ユーリくんの男らしいかっこいい姿を見たら、通うお貴族様がユーリくんを……)」

「(カレラちゃんからも、ユーくんのことはお願いされたし……!)」

「(可能な限り一緒にいて、ユーリくんがお貴族様に目をつけられないようにしないと……!)」


 聖女、賢者、剣聖。

 そんな呼び名を持つアカデミー最強が四六時中べったりいれば目立つのは確定。

 しかし、それに気づいていないお二人は今日何度目かの決意を固めているようで。


 ギラついた瞳を背中から感じ取ったのか、先を歩くユーリは悪寒が走ったように背筋を震わせたのであった。

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