試験案内
次回は9時と18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ
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どうやら、自分はアカデミーに通うことになるらしい。
なんてことを、実の姉からつい最近手紙で教えられたユーリ。
平民である自分が通うには特別な入学試験と特別な人間からの推薦状が必要になるのだが、今回は何故か姉が書いてくれるのだという。
そこまでして僕を入学させたいのか? なんて思ったのは至極当然。本来は特待生枠でもなければ貴族でない平民が入学することなどできないからだ。
ユーリは正直、そこまでアカデミーという学び舎に興味がない。
今の方が自由な生活ができるし、アカデミーに通えば大好きなお菓子を作る時間が奪われてしまう。
ただ、まぁ……あの三人が通っている場所に少しも興味が沸かないかと聞かれると首を傾げてしまうもので。
少しばかりの好奇心と面倒くさいのせめぎ合いが、ユーリの内心に渦巻いていた。
(まったく、姉さんには困ったものだよ)
勝手に決めちゃってさぁ、と。
エプロン服姿でキッチンに立つユーリは、完成したクッキーを並べて満足感に浸っていた。
「ユーくん、たっだまー! 超絶プリティな最強ちゃんが大好きな弟くんに会いに来たぜー!」
騒がしい声と共に、リビングのドアからアリスが手を上げながら姿を見せる。
学生服を着ており、現れたのは茜色の日差しが見え始めた頃ということもあって、恐らくアカデミーから帰ってきてすぐやって来たのだと窺えた。
「ねぇ、毎回思うけど、自分の家には帰らないの?」
トテトテと近づいて何故か抱き着いてくるアリスに、ユーリはジト目を向ける。
「ふっふっふー……ユーくんに会えなくなっちゃうからね。アリスお姉ちゃんは自分の家があろうともユーくんの家に足を運ぶよ」
「あ、はい」
「あと、私の家よりこの家からの方がギリギリまで寝ても遅刻しないし!」
ユーリの耳には、最後の発言の方が強く聞こえた。
「っていうか、ユーくんだって嬉しいでしょ? こんな可愛いお姉ちゃんが独り身寂しい男の子の時間を埋めて上げてるんだよ!?」
「待って、この歳のボーイに独り身シールを貼るのはおかしくない!?」
「甘いよ、ユーくん……今時の若い子はね、十歳の時からお相手がいるんだよ」
「なん、だと……ッ!?」
ユーリは思わずその場で膝をついてしまう。
まだまだ十代折り返し。正直、まだ想い合う相手がいなくても普通だと思っていたのだが、世の中はどうやら厳しいらしい。
「まさか、世間はそんなに浮ついていただなんて……ッ!」
「だからね、ユーくんはアリスお姉ちゃんに感謝すべきなのです!」
「アリス姉ざぁんっ!」
膝をついたユーリは涙を浮かべながらアリスの胸へと飛び込む。
そして、流れるように膝枕へと体勢が変わっていき、アリスは可愛い親友の弟の頭を優しく撫でる。
さり気なく「目の前にお相手もいるよ(ボソッ)」などと、脳内に刷り込むように囁いてはいるが。
その時───
「……貴族は、十代で婚約相手を決めることがある」
「「うぉっ!?」」
突如現れた声に、アリスもユーリも思わず飛び退いてしまう。
先程までそこには誰もいなかったというのに、振り向くと学生服の上からローブを羽織ったロニエの姿があった。
「……だから十歳でお相手がいるのは珍しくないけど、正直アリスが言うほどそこまで多くない」
「僕の童貞心を弄んだな、アリス姉さん……ッ! って、それよりもいつの間に後ろにいたの!?」
「……この前ユーリと話した魔法を早速試してみた、むふん」
ロニエが自慢するように表情少ない顔で胸を張る。
そのせいで大きかった胸が更に強調され、驚いていたはずのユーリの視線が釘付けになってしまったのは内緒である。
「……でも、やっぱり改良の余地がある」
「そうなの? いや、普通に成功しているように見えるけど───」
「……下着だけ移動ができなかった」
「ぶはっ!」
「ちょ、ちょっとユーくん!?」
まさかのノーパンノーブラ。
言われてみれば、大きな胸に僅かな突起があるような……? そんなことを思ってしまったからか、ユーリの鼻から思わず血が出る。
「もうっ、ロニエちゃん! そういう色仕掛け禁止って話だったじゃん! すくすく健全な男の子に育ってもらわなきゃいけないんだから!」
「……わざとじゃない。私の胸が大きいのもわざとじゃない、よ?」
「ねぇ、今見せつけなかった? わざわざ手で持ち上げて小ぶりな私に見せつけなかったかその胸をッッッ!!!」
アリスの胸は制服越しから軽く分かる程度のもの。
大きいかと言われれば素直に首を横に振りたいが、振ってしまえば殺されると理解しているユーリは鼻に治癒魔法をかけながら少しだけ距離を取った。
「……胸が大きいと苦労する。あー、持ち上げないと重いよたゆんたゆん」
「これみよがしにアピールしやがって……ッ! だ、大事なのは大きさじゃなくて形だし! 将来垂れたら私の勝ちだし!」
「……大事なのは今。思春期のユーリは私の胸を常にチラチラ見てくる。つまり、貧相な未開拓地より私の胸が好き。あ、ハグしてあげなきゃ」
「貧相じゃないわ私の方がスタイルいいわァァァァァァァァァァァァッッッ!!!」
二人の口論はヒートアップ。
仲がいいなぁ、と。それぞれの胸をチラ見しながら傍観者に徹するユーリであった。
「ただいま帰りました……って、どうかされたんですか?」
「大きいのも小さいのも素晴らしいと思うんだけどね」
「ふぇっ?」
リビングに姿を現したセリシアが、喧嘩勃発中の二人とユーリのギリギリな発言に首を傾げる。
今日も今日とて平和な一日だ。
「あ、そうです、ユーリくんっ! 試験案内の紙はもう届きましたか!?」
セリシアが両手で四角を描き始める。
分かりやすくジェスチャーでもしてくれているのだろうか? そんなことをしなくても紙だというのは分かるのだが、その仕草がなんとも可愛らしかった。
「あー、なんか姉さんの手紙に入っていたような入っていなかったような?」
「実はですね、今回ユーリくん試験の担当を私が担当するんですよ!」
嬉しそうに、セリシアがユーリの手を握ってくる。
皆してこういうスキンシップが何かと多いのは、甘えられている証拠なのだろうか? 歳上なのに、と。ユーリはふと思った。
「へぇー、そうなんだ」
「といっても、ユーリくんだけではなく他の人もいますけどね」
知り合いがいるとはなんとも心強い。
遊びに行く場でもパーティーでもない真剣な場ではあるが、セリシアがいることで少しは緊張がほぐれそうだ。
「私だって試験を担当するのに、ユーくんのいるグループじゃない……」
「……私も試験を担当するけど、ユーリがいない」
喧嘩していた二人がしょんぼりとした顔になる。
なにかと忙しない女の子達だ。
「そういうのって、講師の人が担当するものだと思ってた。ちょっと意外」
「ふふんっ! 普通は上級生が試験監督などしないのですが、私達はそれぞれ成績が優秀───」
「あ、でもまぁ、そういう風習もあるよね」
「あぅ……そういう風習ではないのですが」
三人は『賢者』だったり『剣聖』だったり『聖女』だったりといった異名を与えられるほどの優秀児だ。
そのため、本来は講師が担当する試験監督をお願いされるのだが───優秀児だとは思っていないユーリは別方向で解釈する。セリシアは涙目だ。
「ご、ごほんっ! ユーリくんが今更なのは今更なのでもういいですけどっ!」
「今更?」
「ちゃんとした試験なので、お姉ちゃんがいるからといって気を抜いちゃダメですからね?」
少しからかうような笑みを見せながら、セリシアはユーリの鼻に指を当てる。
その可愛らしい姿に思わずドキッとしてしまったのは、男の子が故に無理もないだろう。
「ッ!?」
「ふふっ、ユーリくんだったら大丈夫だとは思いますけど」
上品かつ、お淑やかで優しく、群を抜いて美しい。
いくら長い付き合いとはいえ、こんな聖女のような笑みを向けられれば心臓が高鳴らずにはいられない。
だからこそ、ユーリは照れ臭そうにセリシアから目を逸らした。
「……色じかけより、多分あっちの方が効果的」
「ぐぬぬ……! やっぱりセリシアちゃんが一番の強敵なんだよ!」
そんな二人を見て、
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