姉の親友達がいる休日

次回は18時に更新です!( ̄^ ̄ゞ


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 アカデミーのお休み日。世間的には休日にあたる日のユーリは、いつも規則正しい生活を送っている。


「そんじゃまっ、いっくよぉ~!」


 朝起きて、ようやく日が昇り始めた頃。

 ユーリの眼前には、両手に剣を握っているアリスが物凄い勢いで肉薄してくる姿が。

 その際、眠たげな少年の欠伸が一つ。ユーリは振り下ろされてくる剣を一本の剣で受け止めた。


「早い……なんて早いんだ」

「平気で受け止めておいてよく言うねっ!」

「まだ日が昇り始めてすぐだよ……」

「あ、時間帯の話!?」


 一撃、二撃、三撃。

 瞬き一つの間に繰り出される剣戟は、胴体や頭、足を的確に狙ってくる。

 容赦など、アリスの振りからは一切感じられない……きっと、それはユーリがしっかり受け止めてくれると確信しているからだろうか?


「アリス姉さん、僕帰っていい? まだ枕が恋しくてラブレターをしたためたいんだけど」

「アリスお姉ちゃんに書いてくれないからダメでーすっ! っていうか、一日の始まりを運動からってすっごい規則正しい生活だと思うの! つまり、こうしたアリスお姉ちゃんとの一幕は健康にいいのです!」

「さも自分が「いいことをしたぜ☆」みたいな顔をしやがって……ッ! せっかくの休日に叩き起こされたことを末代まで根に持ってやる!」

「え、それで末代まで呪われたら流石に私が可哀想じゃない!?」


 少しばかり怒りが湧いたのか、ユーリは繰り出される剣戟の最中にアリスの手首を見事に蹴り上げた。


「ッ!?」

「ははっ!」


 蹴られた手からは剣が離れ、二刀が一刀に変わる。

 それでもアリスは手を止めずに剣を振るい続けるが、ユーリの剣が側面へ叩きつけられ、最後に残った剣を伝って激しい痺れが手に襲い掛かった。


「にゃろ……ッ!」


 アリスは歯を食いしばり、すかさず狙ってくる剣を受け止める。

 そこから始まるのは、またしても目で追えない剣戟の嵐。激しい金属音が、ユーリ達の立っている市民専用の訓練場へと響き渡った。

 その様子を見ていた周囲の冒険者は―――


『お、おい……なんだよ、この模擬戦』

『全然目で追えねぇ……っていうか、あの子って噂の剣聖じゃね?』

『うっそ、マジか。流石は剣聖……学生ってレベルじゃねぇぞ』


 訓練場を使う人間は、基本的に研鑽に励む冒険者が多い。

 つまりは、命を賭けてモンスターに挑めるような実力を持つ人間ばかり。

 そんな人間ですら、この光景には驚かずにはいられなかった―――


『なぁ……そもそも、なんで剣聖と張り合って押しているんだよ、あの子供?』



 ♦♦♦



 規則正しい生活は、何も朝の運動だけではない。

 人間とは常に学習する生き物。脳が衰えないように、しっかりと勉学に励む必要がある―――


「……ユーリ、この魔法なんだけど」


 朝食を食べ終え、軽く水で体を洗い、さて「お菓子作りでもしようかな!」と思っていた矢先。

 何故か、ユーリは王都の中にある喫茶店のテラスにて、ロニエと向き合っていた。


「またですか」

「……うん、ユーリと魔法のお話ししたい」

「家じゃダメだったの? どうせ家に来るのに、わざわざ喫茶店でなんて……」

「……ここの喫茶店、新しい限定スイーツが―――」

「仕方ないですね、ここでお話ししましょうか」

「……そういうユーリの手のひら返し、好き」


 文句を言うことなく真剣な眼差しに切り替わるユーリ。

 どうやら、甘いスイーツで釣るとチョロ男になるようだ。


「……この空間転移の魔法。正直、無駄な式が多いから距離が制限されてると思うんだけど、この無駄な式を何に置き換えればいいか分からない」


 ロニエが分厚い本を開いてユーリに見せる。

 ユーリはざっくり目を通したあと、少しだけ一考して口を開いた。


「そんなの、ここの式に位相って概念を文字を写し込めばいいと思うけど。皆、移動って単語と結果に意識が向きすぎ」

「……だったら、座標を予め固定する必要がある」

「座標じゃなくて、術者だと分かりやすそうじゃない?」

「……なるほど」


 魔法はアカデミーに通うか、それ相応の専門的な環境にいないと学ぶ機会はない。

 故に、多くの人が魔法の原理も理屈も理解できず、漠然に「そういうのがある」という認識がある。

 そのため、ユーリ達の周囲にいた人達は二人の話が届き、ヒソヒソと―――


『おい、あのめっちゃ美人な子って賢者じゃないか?』

『どうりで、話がよく分かんねぇはずだ……あれが学生の話す内容か?』

『っていうか、なんであのガキも話が分かるんだよ……』


 周囲のヒソヒソとした声は途切れることがない。

 しかし、ロニエとユーリもまた、話に花が咲いてまったく会話が途切れることはなかった。



 ♦♦♦



 規則正しい生活は、何も己だけのことではない。

 しっかりと誰かのために行動し、誰かに貢献してこそ己の心が現れ、気持ちのいい一日を送れるようになるのだ。


「すみません、ユーリくん。手伝ってもらって……」


 ロニエとの話が終わったあと。

 今度は病人やら怪我人が集められる教会へとユーリは呼び出されてしまった。


「……またボランティアですか」

「うぅ……怪我をしている人がいるって聞いたら放っておけなくて」


 シュンとうな垂れるセリシア。

 胸からロザリオを下げていることからも分かる通り、彼女はアカデミーの学生である前に信徒だ。

 故にこうして足を運ぶ機会も多いのだが、治癒魔法に特化した天才児は心優しいためこうして誰かが困っていると放っておけない節がある。

 そして、そんな優しさにユーリは振り回されることが多かった。


「はぁ……セリシア姉さんを怒っているわけじゃないよ。っていうか、この状況で怒ったら僕が心に優しさを飼ってない鬼さんになっちゃうじゃん」

「か、帰ったらお礼しますねっ! その、私ができることなんて限られているかもしれませんが―――」

「膝枕でいいです」

「えっ?」

「膝枕でいいです」

「ふぇっ?」


 ユーリくんは膝枕に強いこだわりでもあるのだろう。

 真っ直ぐに年相応の願望を言い放つ少年に、セリシアは思わず呆けてしまった。


『セ、セリシアさんっ! こっちに来ていただけませんか!?』

「あ、はいっ! 今行きます!」


 呆けていたのも一瞬。

 教会にいる修道女に呼ばれたセリシアは慌ててユーリへ背中を向け、怪我人の下へと向かっていった。

 その姿を見送ると、ユーリは袖を捲って気合いを入れる。


「さて、セリシア姉さんひざまくらのために僕も頑張りますかね」


 近くにいたのは、腹部に酷い抉られたような傷がある患者。

 恐らく冒険者なのだろう……どう見ても傷口が人為的に作られたものではなく、荒々しい痕が残っていた。

 そして、そんな患者の腹部へユーリは躊躇なく手をかざしていく。

 すると、淡い光が漏れ始め、見る見るうちに患者の傷口が塞がっていった。


『さ、流石よね……聖女様は。治癒魔法なんて、限られた人しかできないのに、あんなに綺麗に治せるなんて』

『神の御使いって呼ばれる程はあるわね』

『で、でも……あの男の子も聖女様と同じように治してるけど、何者なの?』


 二人の様子を見ている修道女達。

 何やらヒソヒソと話していたが、治癒魔法に専念しているユーリの耳には残念ながら届かなかった。



 ♦♦♦



 そして、規則正しい生活は終わりを迎え―――


「ねぇ、やっぱりユーくんはヤバいよ! かっこよさと強さがキュンキュン超えて不安だよ!」

「……普通じゃない」

「ア、アカデミーでの生活が心配です……!」

「「「これ、絶対に女の子にモテモテだ……ッ!!!」」」


 ―――規則正しい生活を終えた少年に、ユーリ大好きな三人は更なる危機感を覚えたのであった。

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