第十二章


「もしかして」僕は困ったような天城さんを見ていて心づいた。


「て、天城さん、も、もしかして……好きな、お慕い申し上げている人とか?」


「い、いいえ」天城さんは両掌をふるふるした。


「私のこの力、気味が悪いでしょ? だから嫌われる前に、出来るだけ相手を傷つ


けないような感じでお断りしたかったんです」


「はあ」


 何言ってんだ、このめんこいむすめっ子は、フられて傷つかない男はいないって。


それがえりすの暴言だろうと、天城さんの誤魔化しでも、それにまず……。


「な、何言ってるの、天城さん! 君のこと嫌いになる男子なんていないよ! 少


なくてもこの次元の生命体では、あ、アナザ・ラブを抜かしてね……この能力だっ


て凄いじゃないか、欲しいくらいだよ、ホントに欲しいよ僕」


 そうすればテストで泣きを見ることも、無神経教師に皮肉を言われることも、親


に小遣いを減らされることもない。超欲しい。持ち主ごと欲しいです。


 天城さんはばっと頬を抑えた。なんだか燃えているように顔が赤い。


「そそ、そんな、私……」


 実のところまだ『神算星読』とやらは判らないが、チートに近い。否、チート能


力そのもの、格闘ゲームで登場したら即、キャラ禁止に違いない。無理に使ったら


リアルバトルかチャット罵倒合戦突入だ……交際を断る方法を計算するのに三日間


かかるらしいが。


「本当に感謝してます、東雲君にまた拾って貰わなければ、私、断り切れなかった


かも……だから、やっぱり今日は『東雲君の日』として個人的にパーティを行う日


にします。もうスイーツ食べ放題です、うれしいです、ありがとう」


 妙な感謝のされ方だが、悪い気はしなかった。何と言っても今まで見つめるだけ


だった天城さんとこんなに話せた。


「いやあ、ただ落とし物を届けただけだよ、すっごく……まあね、スッゴく苦労し

たケド」


「それに、私の力を羨ましがってくれたのは東雲君だけです。私、実はこの力、い


らない物だと思っていたのに、東雲君は他の子と違って気味悪がらない。うれしい

です、私」


 天城さんが一歩進み、僕のパーソナル・スペースに自然と入った。


 このままいい感じになりそうな雰囲気だ。きっと今なら天城さんと簡単に仲良く


なれる、きっと今なら……。


 全身が突然むずがゆくなった。


 まだ天城さんと話したいのだが、余程太陽光線が強いのか頬が焼かれているよう


に熱い。とてもこの場にいられない。暑いよう。日陰に行こう!


「じ、じゃあ……僕、昼ご飯た、食べるから、またね」


 ぎこちない笑いを浮かべ、出来るだけ自然に背を向けた。暑いからだ。


 心臓が胸の中で跳ね回っているみたいだった。きっと、こんな僕は世間では『チ


キン』とか『チャンスを逃す愚か者』とか罵られるんだろうが、それでもいいような気がする。


 ま、イイ事したんだし、と肉食系の恋愛女神に言い訳しながら、伸びた鼻の下を


揺らして教室に戻ることにした。



 どずっ、と鈍い音が、一年三組に一歩踏み入った僕の傍らで鳴った。



 反射的に見た音の方向には白い壁があったが、人の拳ほどある銀色の鉄塊がめり


込むのも確認できた。


 うああ、と僕がか細く鳴くと、鉄塊はぼろっと壁から落ち、ずどんと床に転がっ

た。


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