第44話 瀬戸内ダンジョン 攻略戦その10:神剣クサナギ!

「ぐギャァぁ!」


 奇声を上げながら、尾や首を振り回すヤマタノオロチ。

 既に数本の首と尾を失いながらも、毒性の高い血を周囲にまき散らす。

 ボスフロアー内には毒霧が充満するが、呼吸器+俺の解毒魔法が効いているので、仲間達の動きに問題はない。

 苦し紛れに水系精霊魔法を使って、高圧水狙撃もしてくるが狙いが甘い。

 俺たちが避けた後の床に、高圧水で削られた傷が残るだけだ。


「皆、一応は解毒魔法が効いているけど、尻尾や高圧水魔法には注意してね。さて、僕も勝負に行こうか!」


 マサアキさん、器用に攻撃を避けながら銃撃をオロチの負傷か所に叩き込む。

 そして時々、テルミット手榴弾を投げ込む。


 音にならない悲鳴を上げ、焼けていくオロチ。

 そこに追撃で、ジャックさんが攻撃型手榴弾を叩き込む。


「ハルト! コア見えたよー! アタシは首狙って動きを止めるから」

「オレも足止めするから、早くトドメさせー!」

「わたしも、がんばるー!」


 マイさん、タダシさん、ナナコさんが前衛に向かいオロチの首を狙う。


 さしものオロチも幾度もの攻撃を受けた上に傷口を焼かれていくので、再生が追い付かない。

 骨すら見える負傷か所も増えてくる。


 俺の目にも、オロチの胸部肋骨がむき出しになっているのが見えた。

 本来であれば心臓があるらしき場所に、淡く紫色に怪しく輝く石らしきものがある。


 ……あれがダンジョン・コアか? CEOに写真を見せてもらったのに、そっくりだ。


「皆さんに防御付与を追加します! えい!」


 アンナさんが、全員に追加の防御付与をしてくれる。

 皆の身体は、俺の付けた解毒の他に光るバリアが付いた。


「わーい。毒液が弾けるぅ。たのしー」


 ……マイさんは、何やっても楽しそうだなぁ。


「おにーちゃん、いくよー! 数多に存在する精霊さん。ハルおにーちゃんがダンジョン・コアを破壊できるように、力を貸してください」


 俺が持つ金色こんじきつるぎの輝きが、アヤの祈願詠唱でグンと増した。


「このままトドメ! オンハラレイキャ・ゴズディバ・セイガン・ズイキ・エンメイ・ソワカ!」


 真言マントラを唱えながら突撃する俺。

 首を幾本も切り飛ばされ、大量に失血したオロチの動きは最初よりもかなり鈍い。


「はぁ!」


 俺は、一気に自分の攻撃間合いに踏み込み、金色剣の切っ先をコアらしき魔石に突き刺した。

 サクっという軽い感触で、剣先はコアに刺さる。

 コアの中ほどまで突き刺さった剣を俺が捻ると、コアはパキンと砕けた。


「げギゃっァぁ!」


 そしてコアを失い、断末魔の叫びを放ったオロチは激しい痙攣をした後。

 ばたりと脱力して崩れ落ちた。


「やったぁ!」

「タダシさん、まだ早いです。残心を忘れないで! 全員、周囲を警戒!」


 俺は荒い息を放ちながら、タダシさんのフラグ発言とマサアキさんの警戒指示を聞いていた。


『すげぇ。誰も死なずにオロチを倒しやがった』

『やはり、火力はパワー! これからのダンジョン攻略は重火器が主流になるぞー』

『アヤちゃん、可愛くて美しい。祈願が神々しいよぉ!』


 イルミネーターには、先程から多数の視聴者コメントが流れていたが、俺は今になってようやくコメントに気が付く。


 ……戦闘中にコメント見る暇は無いからな。


「ちょいちょい。うん、完全に死んでるよ。マナの塵も出始めたし」


 恐々ながらレッサーデーモンからドロップした魔法の短剣で、倒れピクリともしないオロチをつっつくマイさん。

 彼女の言う通り、オロチの身体は崩れ始めている。


「僕も確認するね……。うん、フロアー・クリアー! オロチの撃破を確認。これにてフェイズ1 瀬戸内ダンジョンの攻略を確認しました!」


「ふぅぅぅ。俺、やったんだぁ」


 マサアキさんの勝利宣言で、俺は大きく息を吐いた後に腰を抜かしてしまった。


「ハルおにーちゃん、やったね」

「うん、アヤ。俺たち、勝ったんだ」


 しゃがみこんだ俺の頭をおねーさんぶってナデナデしてくれるアヤ。

 周囲に眼を向けると、元気なマイさん、状況報告を本部にしているマサアキさん以外の全員は、ボスフロアー床にしゃがみ込んでいた。


「ハルトぉ。俺、頑張ったよな? これ、十分な功績になるよな?」


「はい。タダシさん。オロチ撃破パーティの一員は最高の功績だと俺は思いますよ。お約束通り、お使いになったカトラスは進呈します。マサアキさん、良いですよね?」


「うん。マイさんにも短剣はあげるよ。ただ、全部のアイテムについては一旦、魔法研究所に預けてくれると確かるかな。秘められた能力とか確認後、お返しするよ。まあ、ペンダントはパーティの共通財産かな?」


 本部への報告が終わったマサアキさん。

 活躍したタダシさんやマイさんに、使った武器を与えるのに同意してくれた。

 今回、態々に危険な冒険に参加してくれた仲間達。

 彼らには通常報酬以外にボーナスがあっても、悪くないだろう。


 ……俺の使った『コレ』も、出どころからしてヤバイものだろうし。


 俺が手の中の剣を眺めていたら、剣は金色の光る粒子を放ち存在が薄くなっていく。


「え!? これって一時ドロップだったの?」

「もったいないなぁ。それ、オレも知っている神剣だろ? 持って帰れれば一大発見だったのに?」

「しょうがないよ、おにーちゃん。また次の冒険でいいモノ見つかるよ」


 仲間たちがアレコレ言っている間に金色こんじきつるぎは、俺の手の中から消えてしまった。


「しょうがないか。これもオロチの一部だったから、本体が消えたら一緒に消えたんだろう。そういえば、迷宮に異変は無いな。雰囲気魔力は変わらないし」


「うん、アヤもそう思うの。ダンジョンは、まだ消えないみたい」


 俺がダンジョン・コアを突き刺してボスモンスターを倒したのに、まだダンジョンは存在する。


 ……もしかして、アレは只の大きな魔石で、ダンジョン・コアは別に存在したのか? 威力偵察部隊もオロチは倒していないから、詳細は分からなかったのかも?


 俺が不思議に思っているうち、アヤは俺から離れてオロチの死骸跡に向かう。


「アヤ、魔石を拾うね。うわー、一杯あるの!」


 オロチが居た跡には、小山くらいの小石サイズ魔石が詰みあがっていた。

 そして、そこには俺が破壊したはずのコアは存在しなかった。


「アヤちゃん、まだ危ないから魔石拾いは気を付けてね」

「はーい。マサおにーちゃん」


 懐からお気に入りの茶巾袋を持ち出し、しゃがみこんで魔石を拾うアヤ。

 その微笑ましい様子を皆が見ていた。


『おい、ハルト! 3時方向!!』


 そんな時、チャットウインドウに警告メッセージが表示された。

 そして、その方向に俺はとてつもない殺気を感じた。


「皆! 警戒!」


 俺はしゃがみ込んだ状態から立ち上がり、件の方向にスリングでぶら下げていたサブマシンガンを向けた。


 ギュワンという様な音を立て、俺が向けた銃口の先には虹色をした渦巻きが現れた。


「全員、射撃準備!」


 マサアキさんの指示で、全員渦巻きに向かって銃口を向ける。


「%$#tK▽?」


 渦巻きから、今まで聞いたことも無いような言葉が聞こえる。

 そして、漆黒のフルプレート、ヒーターシールド、ソードを構えた騎士が現れた。

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