第45話 瀬戸内ダンジョン 攻略戦その11:魔騎士、現る!

「%$#tK▽?」


 今まで聞いたことも無い言葉を呟き、虹色の渦巻きから出てきた漆黒の騎士。

 フルカウルのヘルメット越しに俺たちを一瞥して、手に持っていた盾と剣を構えた。


「警告する! こちらに危害を加える気なら、貴方に対し攻撃します!」


 一発、天井に向かって警告射撃をしたマサアキさん。

 俺も含めて全員、黒騎士の一足一挙動から眼を離さない。


「……□〇▲!! これで言葉が通じるか。野蛮人サルども、我らが異世界侵略兵器『ダンジョン』を破壊するとは、どういう事か?」


 何かを唱えたと思った後、黒騎士は流ちょうな日本語を話し出した。


 ……今のは多言語翻訳魔法? 我らがダンジョンと宣言するってことは、侵略してきた異世界人か!?


「こちらの質問に先に答えてもらおうか? 貴君は我々に害をなすつもりか? なれば、こちらも黙ってはやられない」


「サルに気遣って分かる言葉で話してやれば、我ら帝国に敵対するのか? 我ら偉大なる帝国は、全ての並行世界の支配者なり。この世界地球とやらも、我ら神聖なる帝国民が支配すべきモノなり!」


 会話は出来ても理解しあえない敵。

 俺はため息を付き、この敵兵に啖呵を切った。


「黙って聞いていれば、独裁国家の侵略者が侵略自慢かよ。他所の世界を荒らしまくって、どこが神聖だ! オマエ達こそ野蛮人バルバロイじゃないか」


「なにぃ! 魔法も碌に使いこなせぬサルが、神聖なる我が帝国を侮辱するか!? 最早、許しておけぬ。全員殺して、再度ダンジョンを起動すべし」


『異世界の黒騎士?』

『ダンジョンって異世界からの侵略兵器だったのかよぉ!』

『こりゃ交渉の余地なんてねぇ! ハルトきゅん、やっちまえ!』


 イルミネーターの端っこに映るチャットウインドウでは、黒騎士を倒してしまえって声が溢れる。


 ……これ、後からCEOや百人委員会が頭抱える案件じゃね? 秘密にしたいであろうダンジョンの秘密がバレちゃったから。


「そうですか。では、全員。撃てファイヤー!」


 黒騎士が会話中には下に向けていたた剣を構え直したのを見て、マサアキさんが射殺命令を出した。

 銃を撃てる人は全員引き金を引く。

 俺もサブマシンガンを撃った。


「く! 妙な武器を使う!?」


 銃撃を斜めにした盾で受け流しながら接敵してくる黒騎士。

 普通であれば小銃弾なら手持ち盾ごとき貫通するのに、パチパチと弾くことから表面に魔法防御がなされているのだろう。


 ……全身の装備から、かなりの魔力を感じる。全部が魔法の武具だ!


「アタシ、行くぜ!」


 左手に持つサブマシンガンを連打して、迫りくる黒騎士にあえて踏み込んでいくマイさん。

 右手の魔法短剣が魔力の軌跡を見せながら黒騎士に切り付けられる。

 しかし、黒騎士は盾をあえてマイさんにぶつけてシールド・バッシュ、マイさんを弾き飛ばした。


 ……フルサイボーグで見かけよりも重いマイさんを吹き飛ばすか!


 俺はサブマシンガンを捨て、錫杖しゃくじょうを握る。

 そして回避に遅れたナナコさんを庇う様に黒騎士の剣に錫杖をぶち当てた。


「ほう! 我が剣を杖で弾くとは、オマエやるな?」


「ふぅぅ。御子神 ハルト、押してまいる!」


 俺はまだ継続中の加速呪、そしてアヤによって付与された魔力を使い、黒騎士に切りかかった。


 突き、横薙ぎ、袈裟。

 杖を剣のように使い、黒騎士と切り結ぶ俺。

 少しでも敵の意識を俺に向かわせて、他の皆の攻撃を通し易くするのだ。


「たかが木の杖! ワレに切れないはずはナシ!」


 黒騎士が、俺の錫杖に切りつけに来た。

 しかし、それこそが俺の罠。

 カツンと黒騎士の剣が錫杖に食い込んだ時、俺は錫杖の中から仕込み剣を引き抜く。


 隙だらけの黒騎士の腹部。

 装甲下の鎖帷子チェイン・メイル部分に剣先をブスリと突き刺した。


「ぐっぅ! 暗器とは卑怯なり……」


「命がけの勝負に卑怯もクソもあるか! 皆、今だ!」


 俺は、横っ飛びに黒騎士前から飛びのく。

 俺の背後には仲間達の銃口が並んでいた。

 そして、一斉に銃弾が発射され、黒騎士に命中した。


「はぁはぁはぁ」


 俺は無酸素状態で切り合いをしていたため、息切れを起こし膝を付く。


『ハルトきゅん、やったぁ!』

『自らの手を汚さずに侵略しているヤツが卑怯っていうかよ』


 チャットウインドウでは、沢山のメッセージが流れるが、それを見たり返答する余裕など、俺にはない。

 何故なら、多数の銃弾を受けながらも黒騎士が硝煙の向こうでまだ立っていたからだ。


「こ、この卑怯者共めがぁ! 騎士たるワレが正々堂々と戦ってやれば、卑怯な手と遠方からの攻撃ばかりしおって!」


 苦痛と怒り、歪んだプライド交じりの恨みごとを言い放つ黒騎士。


「マサアキさん、追撃を!」

「遅い!!」


 俺が黒騎士の様子に寒気がしたため、早く射殺をと言った瞬間。

 黒騎士から噴き出る魔力が増大、その魔力を剣に集めて床に突き刺した。


「ぐわぁぁ!」

「きゃぁぁ」


 黒騎士の剣から放たれた激しい雷撃が、俺たち全員を襲った。


「ふ、ふははは! 魔法を使いこなせぬモノでは、我が雷神剣は防げまい。痺れて動けぬお前らを一人ずつ切り刻んでなぶり殺しにしてくれようぞ!」


 全身から紫色の鮮血を流しふらつく黒騎士。

 幽鬼の様に面防の隙間から真紅の目を見せる。


 俺はもちろん、他の皆も雷撃を受けて倒れている。

 痺れてしまった俺の身体はでたらめに痙攣して、まともに動けない。


 ……ち。ちきしょぉ。麻痺かよぉ。は、早くう、動け! 動かなきゃ、仲間が! アヤが殺されてしまう! オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ! オン・コロコロ……。


 俺は、残る魔力を自らの回復に回す。

 印は結べずとも薬師如来の真言を心の中で唱えるだけでも、少しは効果があるはずだから。


「では、そこの剣士から殺すか。こいつは厄介そうだ」


 俺に向かってくる黒騎士。

 しかし、彼の剣は俺に向かなかった。


「ぐわぁ!」

「アタシを無視とは、甘いぜ!」


 背後から黒騎士に魔法短剣を突き刺すマイさん。

 吹き飛ばされていたマイさんは、雷撃範囲に居なかったらしい。

 すかさず深く突き刺した短剣を捻りまわすが、黒騎士の振り払いでまた吹き飛ばされてしまう。


「このメスザルガキがぁ! 死ねぇ!」

「きゃ!」


 吹き飛ばされて体勢が崩れたマイさんの胸を黒騎士の剣が貫く。


「邪魔なクソガキが死ねぇ!」


 そして横薙ぎ一閃、マイさんは胸から上下に真っ二つに切断されてしまった。


「きゃぁぁ、マイちゃん!

「ちきしょぉ!」


 動けぬはずのアンナさんとジャックさんから、悲鳴が上がる。


「ほう、そこの大男。我が雷撃を受けて立ち上がるか」

「俺はなぁ、マイやアンナの保護者。大事な家族を殺されて、黙っていられるかよぉ!」


 痺れる身体に鞭を撃ち、立ち上がるジャックさん。

 いまだ震える腕でマチェットを振り上げ、黒騎士に切りかかった。

 しかし、剣術が本職では無いジャックさん。

 苦戦どころか弄ばれる。


「くそぉぉ。俺じゃマイの敵討ちも出来ないのかよぉ」


「異世界の戦士よ。オマエはワレ相手に良く戦った。さあ、死ね」


 手足、身体中を切り付けられたジャックさん。

 膝を付き、己の無力さに嘆く。


 ……くそぉ。早く、早く動け。動け。これ以上、仲間が傷つくのは見ていられんだぁ!


 焦る俺の心には関係なく、黒騎士の剣が頭上に掲げられる。

 今にも、ジャックさんの頭に剣が振り下ろされそうになった時。


「やめてぇぇ! どうして人同士で殺し合うのぉ! アヤ、こんなの嫌だよぉぉ!」


 アヤの悲痛な叫びが、ボスフロアー内に響いた。

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