第43話 瀬戸内ダンジョン 攻略戦その9:ヤマタノオロチ、討伐戦!

「マサアキ、接敵!」

「続いてマヤ、接敵!」


 フロアーボス戦。

 初手の対戦車ロケット弾で、かなり怯んだハイドラ。

 固体名「ヤマタノオロチ」は奇声を上げつつ、紫色の血液を流して暴れる。

 しかし、傷口からは泡が吹き出し、見る間に再生をしていた。


「ハルト、現着!」

「タ、タダシ、接敵!」


 ナナコさんが軽機関銃で制圧射撃をしているので、ヤマタノオロチは眼をふさぎ、防御と再生に必死。

 その隙に、俺たちは続々とフロアー内に入った。


「アヤ、きたよー!」

「待たせたな、ジャック。接敵!」


 扉にバールを叩き込み、閉じなくさせたジャックさん。

 アヤと共にフロアー内に突入した。


「皆、いくよー!」


 マサアキさんがアサルトカービンのアンダーバレル・グレネードランチャーを撃つ。

 再び、ヤマタノオロチは爆炎に覆われる。


「ひゃー、アンナちゃん。わたしの斧にも火炎付与おねがーい!」


 その隙にナナコさんもフロアー内に入った。


「ブレス、くるぞー! 皆、気を付けて」


「マサアキさん、俺行きます! オン・マヤラギランデイ・ソワカ! 仏母・孔雀明王マハーマーユーリーよ、毒を消したまえ!」


 爆炎が去った後のヤマタノオロチ。

 俺たちを怒りに燃える真紅の目で睨み、八つの口を大きく開いた。

 そして、ブシャァァとオロチの口から霧吹き状に何かが俺たちに目がけて飛んでくる。


「残念! 毒は効かないんだよー!」

「オレにも、やらせろー!」


 俺が全員に掛けた毒消し、孔雀明王の呪によって大抵の毒は無毒化される。

 その上、防毒面まで装備だから問題無い。


 そして、マイさんが燃え盛るナイフを両手に持ちオロチに飛びかかった。

 タダシさんも、おっかなびっくりでオロチに切りかかる。


「マイ、尻尾にも気を付けろ! タダシ、前に行きすぎるな!」


 ドカドカと予備火器として準備していたショットガンを撃ち込みながら、仲間の動きをフォローするジャックさん。


「おまたせー! わたし、出陣!」


 魔法で燃える斧と大きな盾を構えるナナコさんが、ずしずしとオロチの面前に進んだ。


「撃てる人は射線気を付けて援護射撃を!」

「はい!」


 俺は、奥にあるあまり動かない首の顔目掛けてサブマシンを撃つ。

 オロチのうろこは堅く、小銃弾ですら徹甲弾でも貫くのが厳しい。

 だから、柔らかい部分。

 眼とか口内を狙って、俺は撃つ。


「このまま押し切るよ!」

「おう!」


 戦闘は、こちらに優位。

 初手の対戦車弾で半分以上の鱗は消滅。

 首も半分ちぎれかけている処に皆、攻撃を集中させている。


「首、一本もーらい!」

「こっちは、俺が取るぜ!」


 金切声のような悲鳴を上げるオロチ。

 どんどんと首が刈り取られる。

 その上、火炎付与の武具で切られていくので再生も出来ない。


「グわァぁ!」


 とうとうブチ切れたのか、短い四本の脚をドスドスと踏み鳴らし回転させた尻尾で俺達たちを襲うオロチ。


「どっこいしょー! もひとつ、おまけによいしょ!」


 ナナコさんは、俺たち後衛組の前にカバーに入ってくれる。

 そして盾でしっかりとオロチの尾を受け止めつつ、駄賃で一本の尾を切断していた。


「あれ、斧が欠けちゃった。どうしてだろ?」


 ナナコさん、刃がかけた斧を不思議そうに見ていた。


 ……ヤマタノオロチ、尾、欠ける。何かあったような……。


「おにーちゃん! 日本神話のお話! ヤマタノオロチの尾っぽから剣が出た話!」


「あ! そうか。ナナコさん、フォロー頼みます。俺は切断された尾を拾いに行きます」


 アヤの言葉で全部気が付いた俺、ナナコさんが牽制射撃をしてくれる中、ナナコさんが切り飛ばした尾の元にたどり着いた。


「確かに端の方が固いぞ。すいません、しばらく時間を稼いで!」


 俺は汎用ナイフを腰から引き抜き、膝を付いて鱗が剥げたところからオロチの尾を切り裂く。


 ……日本神話の乱暴者にして英雄神、スサノオノミコト。彼がクシナダ姫を助ける為に退治した魔物がヤマタノオロチ。そして、その尾から出た剣が……。


「やっぱりあった!」


 俺は、両手を紫色の血まみれにしながら、切断されたオロチの尾から細長い金属物を摘出した。


「危ない! おにーちゃん、後ろ!」


 アヤの悲鳴が俺に届いた。

 俺が背後に振り返ると、鞭のように振り回されたオロチの尾が迫る。


 ……避けるのは間に合わない。だったら、一か八か!


 走馬灯のようにアヤの笑顔が脳内に浮かぶ中、俺は手に持った金属製の何かに魔力を込めた。

 すると、心の中に真言が浮かび上がった。


「オンハラレイキャ・ゴズディバ・セイガン・ズイキ・エンメイ・ソワカ! ふん!」


 心に浮かんだ真言を詠唱し、俺は迫りくるオロチの尾に手に持つモノを叩きつけた。


 ずしゃ!


 鈍い音と軽い感触が、俺の身体に伝わった。

 それは決して、オロチの尾に跳ね飛ばされた感触ではない。

 周囲には赤ではなく、紫色の鮮血が飛び散った。


 俺の手の中には、金色こんじきに輝く両刃の剣があった。

 そして、それはいとも簡単にオロチの尾を切断した。


「それって! クサナギ!?」

「ハルト、すげぇモンをドロップしたじゃねーか。このままオロチを倒すぜ」

「おにーちゃん、無事でよかったの」


 マサアキさんやタダシさんは、俺の手の中の剣に対し感嘆の声を上げ、アヤは俺の無事を喜んでくれた。


「ええ、このままオロチを倒します!」


 金色の神剣にいざなわれ、俺はオロチに立ち向かった。

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