第42話 瀬戸内ダンジョン 攻略戦その8:第十層、フロアーボス!

「はぁはぁ。やっと、ここまで来たか。皆、まだ行ける?」


「僕は、なんとか。弾薬も節約してきたから、もう一戦は大丈夫。温存してきたグレネードも使うよ」


「わたしは、弾薬が半分弱ってとこかな? その代わりパンツアーくんは一発あるし、強化魔法掛けてもらったら、斧でハイドラの首飛ばすね」


「アヤは、魔力が残り半分弱ってとこかな? まだまだ元気だよ!」


「情けないぞ、皆。オレは、まだまだ元気さ。さて、電脳でハイドラの弱点とやらを再確認するぞ」


 やっと第十層、ボスフロアーの前までたどり着いた俺たち。

 ここまで、迫りくるモンスターの群れを薙ぎ払い、吹き飛ばし、なんとか全員無事に突破できた。


 ……かなり無理してきたのに、俺に気を使っちゃって、皆。


「すまねぇ。俺が苦戦しなきゃ、まだ一発パンツァーを残せたのに」


「ジャック、ありゃしょーがねーよ。アタシでもアイアンゴーレム相手じゃ勝てないや」


「わたしがハルトさんみたいに沢山の呪文を使えれば、もっと楽でした……」


 コントラクター組は、自分達があまり役に立てなかったというが、そんな事は無い。


「ジャックさん、マイさん、アンナさん。無関係な貴方がたが、ここまで一緒に来てくださってくれただけで俺は嬉しいです。後はボス倒して、みんな笑顔で帰りましょう」


「だね。じゃあ、皆。防毒面を準備して。ナナコさん。初手は貴方のパンツアーファウスト3で。プローブを伸ばしてHEATモード。僕とマイさんは、着弾後に先行突入します。他の敵がいたら臨機応変で」


「りよーかい、マサアキくん。パンツァー撃ったら機関銃で制圧射撃をして、皆が中に入るのを援護するね」


 既に敵ボス、ハイドラ。

 固体名「ヤマタノオロチ」について、数々の情報がある。

 俺たちが入る前に威力偵察に入ったパーティたちが入手した命がけのデータ。

 これを大事に使わねば、犠牲になった彼らに悪い。


 ……毒にやられてしまった方が居たと、俺はマサアキさんから聞いている。他の方も傷だらけになり、命を救うためにサイバネも用いられたとも。


 八つの頭と八つの尾を持つ洪水の荒神、ヤマタノオロチ。

 ギリシャ神話に出てくるハイドラの性質も併せ持ち、毒の霧を吐き、水系の精霊魔法も使うと聞く。


 ……更に再生能力が高く、切り傷を焼かないと首を飛ばしても再生してくるんだよな。


「わたしは、皆さんの接近戦武器に火炎を付与します。後は後方支援系魔法に専念です」


「アンナおねーちゃん、一緒にがんばろーね。アヤは、皆に防御魔法をかけるね。怪我したり毒になったら、直ぐに治療するの」


 術者二人、共に自分が出来る事を提案してくれる。


「では、俺は広域毒消し魔法を掛けた後、加速呪と火炎剣で切りかかります。捕縛魔法も使いましょうか?」


「そーだねぇ。ハルトくんは、この後の事もあるから毒消しと捕縛魔法だけで後方に待機してて。切りかかりたいのは分かるけど、コア破壊に魔力温存しとかないと。僕、毎度キミの抑え役なのかなぁ」


「そうだぞ、ハルト。切りかかるのはオレらに任せて、後ろで偉そうにしていやがれ! さて、今宵のカトラスは切れ味抜群だ」


 俺が接近戦をしたがると、マサアキさんやタダシさんにたしなめられた。

 言われてみれば、コア破壊にどれだけ魔力を使うのかすら、まだ不明。

 俺とアヤは、万全の体制で当たらなくてはならないのだから。


「ハルトは、ホント突撃体質だにゃぁ。アタシと良いコンビ組めそーだな」


「マイ、雇い主を揶揄からかうのは、そんくらいにしておけ。ハルトさん、貴方がキーです。くれぐれも無茶はダメですぜ。で、今回もドア開けは俺で良いんですね?」


 本職じゃない戦闘でも大活躍のジャックさん。

 今思えば、彼との初戦。

 よく俺とマサアキさんが勝てたと思う。

 もし、あの時点でフチナダ・バイオ重役に俺ら二人の詳細情報が流れていたら、確実に負けていた。


 ……今回もそうだけれど、知らない相手ほど戦うのに怖い相手はいないな。相手の『手札』を知らずに特攻は出来ないや。


「はい、ジャックさん。お願いします。じゃあ、皆。絶対に生きて帰るよ! ハルトくん、アヤちゃん。君たちに人類の未来が掛かってる。僕たちは、こんなところで負けていられないよ」


「ああ。アヤ、行くよ!」

「うん、おにーちゃん!」


  ◆ ◇ ◆ ◇


 ギィという音を立てて、重厚な扉が押し開かれる。

 漆黒の部屋の中、扉が開くと同時に壁の松明や天井のシャンデリアに炎が灯される。

 まだ薄暗いボスフロアーの中、中心付近に巨大な固まりが見える。

 そして音に反応したのか、固まりから八つのモノが伸びて十六の赤い瞳が解放された扉のこちら側を睨んだ。


「後方確認ヨシ! ナナコ、いっきまーす!」


 初手、対戦車ロケット弾。

 パンツアーファウスト3の攻撃から、俺達の「ヤマタノオロチ」討伐戦が開始された。


 ……ダンジョン内じゃ長距離射程も余分だなぁ。ジャベリンは、それこそ野外でドラゴン相手にする為のものだし。これ、もしかしてカールグスタフの方がダンジョン内でも使いやすくないか? 終わったらオカダ教官にでも相談しよう。


 俺がパンツァーファウストのバックドラフトの余波から眼を逸らして、今後の事を考えていたら爆風が扉解放部から吹き出した。


「*%ク$シャぁぁ!」


 なんとも言えない悲鳴を上げるヤマタノオロチ。


「着弾を確認! かなり効いてる。突入、GO、GO!」


 扉の陰から中を観察したマサアキさん。

 無事、対戦車弾の効果があった事を確認して突撃命令を出した。


「いくぞー!」


 俺は、マサアキさんの後に続き、ボスフロアー内に突入した。

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