第41話 瀬戸内ダンジョン 攻略戦その7:レッサーデーモン戦!

「やぁ!」


 俺は、目の前のレッサーデーモン赤銅魔神と切り結び合う。

 デーモンの鋭いかぎ爪をひらりと避け、叩きつけてくる火球ファイアー・ボールをズバッと切り払う。

 そして摩利支天まりしてんの御力で輝く剣を、魔神にズドンと叩きつける。


「グぎゃァ!」

「ちい! まだ、浅いかぁ」


 紫色の血を傷口から吹き出しながらも、まだまだ暴れまわるデーモン。

 俺の強くない攻撃力では、数撃与えた程度では殺しきれない。

 精々が手傷を増やすだけ、攻撃を俺に引き付けるのが精一杯だ。


 ……俺は本職の剣士じゃない。こういう時の為に剣術も習っておくべきだったか。


「くそー。動きが早くて逃げるのがやっとだぁ!」


 向こうの方では、タダシさんがカトラスを振り回して逃げ回っている。

 攻撃を引き付けてくれているだけ、ありがたい。


 ……後方に攻撃をこさせないだけでも、助かるな。


 視線の端っこでアヤを見ると、早速倒れている兵士のお兄さん達に治癒魔法をかけている。

 アンナさんは、パーティの武器に魔法付与をしていた。


「ハルトくん、僕も参戦するよ!」

「わたしも、ハルトきゅん!」


 魔法の光で輝く銃剣のマサアキさん、魔力が付与された大きな戦斧を構えるナナコさんが俺の側に来てくれる。


「助かったぁ。オレは下がるよぉ!」


 タダシさんの方ではマイさんとジャックさんが支援に入った。

 これで3VS1が二組、一気に勝負を付ける!


「やぁ!」

「ギいィィィ!」


 俺は気弾を飛ばし、山羊頭の眼を一個潰した。

 怯んで動きを止めた魔神の腹に、マサアキさんが銃剣を突き刺す。


「も、いっちょ!」

「キじゃァァ!」


 そして引き金を引いて、内部から魔神の腹をズタズタにした。


「あたしがトドメ!」


 さしもの魔神も膝を付き、そこにナナコさんが斧を叩き込む。

 最後は悲鳴も上げずに、レッサーデーモンの首が飛んだ。


「これで死んだか?」


 おれはかつての失敗を繰り返さないため、レッサーデーモンが完全にマナの塵になるまで目を離さなかった。


「いやっほー!」

「ぐギャぁぁ!」


 タダシさんの奇声が耳に耳に飛び込む。

 俺が首を回すと、倒れ伏し塵になりつつあるレッサーデーモンの死体の上で、魔法で輝くカトラスを頭上に掲げていたタダシさんの雄姿があった。


「ふぅぅ。皆、怪我とか無い? 結構、危なかったな」


「ハルトくん、お疲れ様。他からの追撃は無いみたいだよ。ただ、支援部隊はかなりやられたみたいで……」


 俺の肩を軽く叩き、労をねぎらってくれたマサアキさん。

 しかし、彼の顔に勝利の笑顔はない。

 マサアキさんの視線の先には、アヤの治癒魔法でなんとか死は逃れた程度の怪我人が、ダンジョン通路に多数横たわっていた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「では、作戦会議を。マサアキさん、フチナダ支援部隊の情報をお願いします」


 俺たちは、第九層に降りる階段前フロアーにて作戦会議を始めた。

 状況が大きく変わり、今まで通りの「楽勝」なダンジョン制圧ではなくなったからだ。


「これまで僕たちを支援してくれていた支援部隊ですが、半数以上が行動不能となりました。幸いな事にアヤちゃんの広域治癒で全員、死の危険は去りましたが、とても戦闘は不可能。やむなく、怪我人を抱えたまま撤退をすることになります」


「マサアキ。つまり、もしこのまま先に進むのならオレ達は支援なしでダンジョンの最下層まで行かなくちゃならんのか?」


「ひゅー、タダシは臆病だなぁ。アタシ、こんなシチュエーション燃えちゃうよ!」


「マイちゃん、今は真剣な話中なのよ。そうなれば、かなりの苦戦になりますね、皆さん?」


 タダシさんは少し顔色が悪くなり、それを馬鹿にするようにマイさんは揶揄からかう。

 そんなマイさんを毎度の様にたしなめるアンナさんだが、彼女の顔色もあまり良くない。


「なので、二つの行動が考えらえます。ここから支援部隊と一緒に撤退する。もしくは階段・ボス部屋ルートだけを通過する強襲制圧コースです」


「俺は、雇い主の判断に従うぜ。ただ、俺個人としては、このパーティなら十分戦闘継続は可能だと思う。撤退時を考えなければだが……」


 俺の提案の内、強襲コースにジャックさんは消極的賛成をしてくれる。

 せっかく、ここまで無傷かつ十分な弾薬・資材を持って踏破してきたのだから、一気に勝負をつけたいという気持ちもわかる。


「ええ、ボスを倒した後の事が無ければ、俺も強硬策を考えたでしょう。しかし、ダンジョン・コアを破壊した後、ダンジョンがどうなるかは不明。直ぐに崩壊を始めるのなら、避難をしなくはならないです。その上、第九層、そして最終十層には先程のレッサーデーモンの他、魔法攻撃しか効かない相手。更には重装甲で銃弾も弾く敵も存在すると聞いてますし」


 俺は、アヤや他の皆を危険に晒すのが嫌だ。

 ただでさえ、危険なダンジョンに来て戦ってもらっているのに、死ぬのが前提な事は頼めない。


「あまりに危険な事に皆さんを巻き込みたくない。それが俺の考えです。撤退の準備を……」


 俺が、皆の顔を見て撤退宣言をしたとき、何かごそごそと背嚢の中を探していたアヤが叫んだ。


「おにーちゃん、そういえばアヤ。CEO、グレーテお姉ちゃんから魔法の巻物スクロール貰ってるの」


 アヤが取り出したのは、赤い蜜蝋で封印をされた羊皮紙の巻物。

 如何にもな魔法の巻物スクロールだ。


「危ないときは、これを使えば何処からでも脱出できるって。避難先は士官学校の中庭に設定してあるって、お姉ちゃんが言ってたの」


「アヤ! どうして、そんな大事なものを俺や他の皆に教えてくれなかったんだよ!? 今頃になって、どうして!!」


 俺はアヤが俺に重要なことを秘密にしていたのに怒りを覚え、怒鳴りつけてしまった。


「ご、ごめんなさい、おにーちゃん。グレーテお姉ちゃんがね、おにーちゃんが本当に困った時、これを使いなさい。それまでは絶対に秘密だって言って渡してくれたの」


「あ! ごめん。アヤ。いきなり怒鳴ってしまって。そうか、そこまでCEOは読んでいたんだな……」


 俺の指揮に問題があり、早々の撤退になった場合。

 更には撃破後の撤退について、何も考えていなかった場合の保険として、CEOはアヤに渡していたに違いない。

 最悪、アヤだけでも避難できるように。


「ううん。相談しなかったアヤも悪いの。どうして、アヤ。おにーちゃんに話さなかったんだろう」


「さてはCEO。アヤちゃんに暗示をかけて話せない様にしていたんだな。全く、あのヒト。いや、魔神さんと来たら……。アヤちゃん、ハルトくん。帰ったら僕がCEOに怒っておくね」


 ……俺、まだまだだなぁ。アヤに当たり散らしちゃって。


 マサアキさんが、半泣きのアヤを慰めてくれているのを見て、俺は自己嫌悪に陥る。

 よりにもよって、大事なアヤに八つ当たりをしてしまったのだから。


「ゴメン、本当にごめん、アヤ。俺が……」

「ゴメンは一回で良いよ、ハルおにーちゃん。おにーちゃんは皆の命を背負って戦っているんだもん。心が疲れちゃうよね。アヤ、おにーちゃんが優しいのは知っているから」


 不甲斐ない俺を、太陽のような笑みで照らしてくれるアヤ。

 そして背伸びをしつつ、項垂うなだれた俺の頭をヘルメット越しにヨシヨシと撫でてくれた。

 周囲を見渡せば、同じように俺に微笑んでくれる仲間達。


「に、逃げる算段があるなら、行けるところまでいこーじゃないか、ハルト。幸い、レッサーデーモンから魔法の武器がドロップしたんだし」


 タダシさんは、魔神からドロップした魔法の短剣二本を俺に見せつける。


「そーだね。アタシも先に行くのに、さんせー!」

「もーマイちゃんは、考え無しね。でも、わたしも同意見です。ここまで来たんだから、もう少し頑張りましょう、ハルトさん」


 マイさんは、タダシさんから魔法の短剣を奪いつつ、俺にサムアップをしてくれた。

 彼女をなだめるアンナさんも笑顔だ。


「ということで、僕も先に進む方に賛成。帰り道の心配がないなら、このまま先に行こう」

「あー。もう皆、ハルトきゅんの突撃癖が感染しちゃったの? しょうがないから、ナナコおねーさんは皆を守るよ」


 マサアキさん、ナナコさんは、いつも俺を肯定してくれる。


「おにーちゃん。さあ、行くの!」

「うん、アヤ。じゃあ、皆、お願いします!」


 そして、俺達のダンジョン攻略。

 最終フェーズが開始された。


「このまま、寄り道なしで第十層、ボス部屋まで直行します」

「おー!」

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