第40話 瀬戸内ダンジョン 攻略戦その6:ダンジョン第八層!

「ふん! ふん! これ、よく切れるなぁ」


「タダシさん。あんまり先行しないでくださいね。一人だけ突出したら袋田抱きに逢いますよ!」


「大丈夫だって、ハルト」


 タダシさんは機嫌よくリザードマンロードからドロップした魔法剣カトラスを振り回し、赤鬼オーガを切り払う。


 ……上手く刃筋を通しているなぁ。タダシさん、さては電脳に剣術アプリをインストールしたかな?


「魔法の武器かぁ。アタシが貰った……」

「借りたでしょ、マイちゃん!」


「はいはい、アンナ。借りたネックレスには、どんな魔法がかかっているんだろーね」


「お前ら緊張感無さすぎだぞ! はぁ、すいやせんねぇ。ウチの娘どもと来たら」


「いえいえ。緊張しすぎは動きが硬くなりますからね、ジャックさん。だから、ハルトくんも少しはリラックス、リラックス!」


 マイさんは、ブンと振り回されるオーガの斧をくぐって懐に入り、サブマシンガンを接射。

 ジャックさんもオーガの斧を大型ナイフ、いやマチェットで受け流してアサルトカービンで撃ち殺す。

 マサアキさんに至れば、俺に話しかけながら銃剣をオーガの首に突き刺していた。


「おにーちゃん。皆、強いね」

「ああ、アヤ。オーガを相手にこれじゃ、俺の出番は無いよ」


「あ、マイちゃん。危ない。もー、見ていられないよぉ!」


「ハルトくん。皆が接近戦するのを辞めさせてよぉ。じゃないと、わたし撃てないよぉ」


 俺の横でアヤ、アンナさんは前衛の皆の戦いを眺めている。

 俺たち後衛組の前にはナナコさんが待機し、いつでも機関銃で薙ぎ払う準備をしていた。


「だって、ふん! オーガに、ま、間合いを取ったら魔法使うでしょ。だったら、接近戦で魔法をつ、使う余裕を無くさせるのが良いんだ」


 銃剣と銃撃を組み合せてオーガ―をどんどん屠っていくマサアキさん。

 彼が言うように、オーガは魔法も使う強敵。

 間合いをとれば火球ファイヤー・ボールを撃ちまくられて困るのだ。


「さあ、このまま殲滅するよ。魔法を使うそぶり見せたら、打ち消しを頼むよ、アヤちゃん」

「うん、マサおにーちゃん」


 そして強敵であるはずのオーガ、六体の集団もあっという間に殲滅された。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「視聴者のみんなー。見てるー。今、八層目なの!」

「アヤ、まだ元気いっぱいだよー」

「先程の助言、ありがとうございました。おかげでオーガ相手に有利に戦えました」

「視聴者の者共よ。魔法剣の威力を見たか!」


 第九層に向かう階段前のフロアーで、今は座り込んで休憩中。

 周囲の警戒は、同行部隊のお兄さん方がやってくれている。


 基本、階段周辺ではランダムエンカウントは起きないと言われている。


 ……まあ、モンスターが多くなれば階段前にまで溢れる場合はあるけど。今日も第一層で待ち構えていたか。


「ハルトくんも視聴者にコメント返しとかないと。オーガ戦、視聴者からの助言で随分と助かったし」


「あ、ああ。やっておくよ、マサアキさん。え、えっとぉ。皆さん、応援、助言ありがとうございました。まもなく九層、そして最終十層に俺たちは向かいます。これからも宜しくお願いします」


 イルミネーターのチャットウインドウを見ると、


『頑張れー!』

『両手じゃなくて両手足に美少女ばかり、揃えやがってー!』

『ハルトきゅん、今日も凛々しくてかわいー!』


 俺への応援、やっかみが半分半分。

 こと、アヤたちをアイドルと見る目が意外に多いのには閉口してしまう。


 ……アヤやナナコさんは、見世物じゃないんだぞー!


「うふふ。アヤ嬉しいなぁ」


 しかし、俺の横に居るアヤは、視聴者に褒めてもらって嬉しそうなのも事実。


「ふぅ。とりあえず俺はアヤを守ってダンジョン攻略だな」


 俺はため息を付いて、立ち上がろうとした時。


「警戒! 補給部隊が苦戦している。まもなくこちらに接敵! 敵は……。レッサーデーモン二体!」


 銃撃音と悲鳴が俺の耳に飛び込んだ。


「ハルおにーちゃん!」

「アヤ、皆。同行部隊を助けに行きます」


「了解!」


 全員表情を引き締め、銃撃音の方角に向かって走っていった。


 ・

 ・・


「うわぁ。銃撃が、き、効かない!」


 俺の目には廊下に倒れている兵士。

 腰を抜かしつつも銃撃をモンスターに撃ち込んでいる兵士。


 そして銃撃を受けつつも平気な顔をして、銃を自らに撃ち込む兵士に向けて火球を打ち込もうとしている山羊頭で赤銅色な巨人が映った。


「オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ! 加速呪! ノウマク・サマンダ・ボダナン・オン・マリシエイ・ソワカ! 太陽剣!」


 ……魔神デーモンは、存在を半分ほど異世界に置いてあるから、物理攻撃が効きにくいはず。なら、魔法剣で!


 俺は加速呪で一気に魔神に向かって踏み込む。

 早口な摩利支天の呪文で抜きはらった錫杖しゃくじょう剣に光をまとわせて、魔法を完成させようとしていた魔神を切り裂いた。


「……くきゃぁ!」


 奇声をあげて怯む魔神。

 俺は腰を抜かした兵士を庇う様に、魔神に向かって対峙する。


「皆、こいつらは魔法の武器しか効かない! タダシさん、お願いします!」

「お、おう!」


 俺の横で魔法の光で輝くカトラスを構えるタダシさん。

 彼の手が少し震えているのが、俺の目に入った。


「ハルトさん。わたし、皆さんの武器に魔力付与します!」

「ハルトくん、僕らが行くまで無理はしないで!」


 アンナさんとマサアキさんの声が俺の耳に入る。

 他の人も接近戦が出来るなら、かなり楽になる。


「出来るだけ早くお願いしますね。タダシさん、ココ無事に突破出来たら貴方にカトラスを進呈します」


「わ、分かった。ハルト、死ぬなよ」


「それはタダシさんも同じです。まずは回避優先でお願いしますね」


 俺は、魔法を邪魔された事で怒りに燃えるレッサーデーモンに向かって切りかかった。


 ……負けるものかよぉ!!

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