第37話 瀬戸内ダンジョン 攻略戦その3:ダンジョン第一層!

「前方十メートル、敵ゴブリン四体」

「アタシに任せておけ! おらぁ」


「あ、勝手に……。まあ、しょうがないか。マイさん、あまり先行しすぎないでくださいね」


 俺たちは、今ダンジョン第一層目を探索中。

 マップは既存タイプと同じだし、別動隊が俺たちが襲撃を受けない様に『掃除』をしているので、モンスター多めのダンジョンといえど、楽な冒険だ。


「いーじゃん。このくらいなら、アタシに掛かったら一瞬だよ?」


 サイボーグ少女マイさん相手だと、ゴブリン四体程度では相手にならない。

 一瞬で間合いに踏み込んで二体は首が高周波ナイフで飛ばされ、二体は至近距離からサブマシンガンをババンと喰らってマナの塵になった。


「それは、そうなんですけど。今日はボス戦が二回もありますから、ある程度はパワー温存してもらわないと」


 勝手な事をしたマイさん、お姉さんみたいなアンナさんに「もー、マイちゃんったら」と叱責されている。


 ……マイさんも、あの若さで全身義体フルサイボーグになるのに、大変な事情があったんだろうな。


 マイさん、全身義体になった事情は「まー、色々あってね」とだけ語る。

 アンナさんが、こっそり教えてくれたのには「小児がんで、仕方なく身体を失ったみたいなの」との事。

 IDが無いマイさんが全身義体になるには、資金的にも機会的にも不可能。

 国保や企業による社会保険でも、全身義体は余程の事情が無い限りは許可が出ない。


 ……もしかすると、メガコーポの実験台になったのかも。まだ義体制御OSとかは試作品しかないって話だし。


 俺に対して、Vサインを見せて得意げなマイさん。

 何処にでもいそうなお転婆娘らしい幼げな笑顔を見て、俺は笑みを浮かべてしまう。


 ……誰だって事情やしきたり、法律や権力に縛られているんだよな。それは俺もアヤも同じ。今は、少しでも改善するべく頑張らないとね。


「マイさん、ちゃんと貴方が前衛を出来る様に指揮しますから、少しくらいは話を聞いてね」


「はいはい。ハルトはアタシに勝ったんだから、言う事は聞くよ」

「ほんと? ハルトさん、ウチの馬鹿娘がすいません」


 得意げなマイさんの横でペコペコしているアンナさん。

 その様子を見て、御曹司、タダシさんまで笑う。


「ははは! ハルト、いいじゃないか。強い敵が今じゃ仲間。オレも以前はハルトの敵。だから、オレもアテにしろよ?」


「ハルトくん。愉快な仲間で楽しいね」

「うん、マサおにーちゃん。アヤも、そう思うの」

「はぁ。ナナコお姉さんは全員の面倒を見るのが大変だわ」


「おい!、その面倒を見るのは俺も入っているのかよぉ?」


 ナナコさんのため息にジャックさんも冗談半分に苦笑する。

 俺は、緊張感が全くない仲間たちが頼もしくて嬉しい。


「さあ。第二層の階段までもう少し。気を付けながら前に行きましょう」

「了解」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ほう、階段前のフロアーでボスっぽいのがいるんやな」


 ジャックさんが舌なめずりをしながら、階段前に陣取る敵グループを眺める。


「ハルト。アタシ、突撃していいよね」

「マイさん。僕らが突っ込むと手榴弾とか使えないよ」


 前衛のマイさんとマサアキさんが銃を握って敵を睨む。


「ハルトきゅん。わたしはいつでも射撃できるよ」

「お、オレも。こ、怖くなんて無いぞ!」


 ナナコさんは軽機関銃をがっちり構え、タダシさんは震える手でアサルトカービンの銃口を敵に向ける。


「ハルトさん。敵に対して睡眠魔法スリープを使いましょうか?」

「ハルおにーちゃん、わたしは何したらいいのー?」


 アンナさんは西洋ウエスタン近代魔術ミスティックらしい杖を構え、アヤはニッコリ顔で俺の指示を待つ。


 ……ゴブリンキング、シャーマン一体ずつ、ホブが二体。ゴブリンも弓兵が四体、後は雑魚ゴブリンが十体ほどか。遠距離攻撃できるのがいるのは厄介だなぁ。


 ゴブリン達も俺たちを睨み、キングの指示を待ち攻撃のタイミングを見る。


 ……お互いに睨み合いかよ。奇襲されなかった分マシと思わなきゃな。


「もう奇襲は無理ですから、このまま行きます。アンナさん、睡眠魔法を。ジャックさんは敵の真ん中に手榴弾を。ナナコさんはシャーマンと弓兵を優先でお願いします。マイさん、マサアキさんは撃ち漏らしをお願いします」


 俺は、一気に指示を出す。


「俺とアヤは状況次第で魔法支援。さあ、行きましょう!」

「了解!」


 俺の命令を待っていたのか、ゴブリンキングも声を上げ戦端が開かれた。


「ぐぎゃー」


 魔法を詠唱するシャーマン、弓を構える弓兵ゴブリン。

 しかし、先行してアンナさんの睡眠魔法が発動する。


 ……先手を取った!


 弓兵は、眠りこけながらも弓を放つ。

 魔法耐性があるシャーマンからは、火球魔法ファイヤーボールが飛んでくる。

 どれもが、俺たち術者を目がけて。


「ノウマク・サマンダ・ボダナン・バヤベイ・ソワカ! 帰命したてまつる。風天ヴァーユよ、矢を弾け!」

「精霊さん、魔法攻撃を散らして!」


 遠距離攻撃を見越していた俺は風天による矢避け、アヤは対抗魔術カウンターマジックを使う。


 ……お互い術者は先に殺せか。ゴブリンの割に基本に忠実だね。


 弓矢は俺の「旋風」で散らされ、火球はしゅんと消える。

 後は、動きが鈍くなった奴らを手榴弾と銃撃で一蹴した。


「ふぅ。皆、大丈夫?」


「らくしょー!」

「おにーちゃん、次いこうね」


 ダンジョン第一層、俺たちは難なく攻略した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る