第36話 瀬戸内ダンジョン 攻略戦その2:揚陸開始。

「今回の指揮だけど、ハルトくんでいいよね」


「わたしはさんせー!」

「アヤも賛成なの」

「まあ、ハルトなら良いか。マスダにも勝てるくらいだし」


「俺は雇い主の判断に任せるぜ。前衛も出来る魔法使いなら大丈夫だろ」

「ハルト、これが終わったらアタシと勝負だぁ!」

「もー、そればっかりじゃ困るんだけど、マイちゃん」


 島に向かう前、作戦会議中にマサアキさんが突然俺を作戦指揮官に指名してきた。

 俺としては、慎重なマサアキさんに指揮を頼みたかった。


「僕? 無理だって、ハルトくん。僕のポジションは斥候偵察。指揮官ってのは背後に居てどっしり構える必要があるんだ。その点、ハルトくんは魔法使いだから基本後衛。もう勝手に前に出て接近戦はしないでね?」


 と、マサアキさんに前に行くなと釘を刺された上で指揮官をやれと言われた訳だ。


 ……俺が暴走しない様にする意味もあるんだろうね。指揮をするなら全体を見なきゃいけないからな。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「では、接舷! 上陸後、港周辺に集積・前線指揮拠点を作りましょう」


「了解です」


 迫撃砲による攻撃で地上のモンスター達を『掃除』した俺たち。

 午前七時過ぎに島の南部にある港に船を接舷させ、島に降り立った。


「設営、宜しくお願い致します」

「こっちにテントや資材置き場を作るぞ!」


 俺の指揮で、設営担当の部隊が資材を船から降ろしている。

 年上の人達をつかうというのは、今一つ慣れない。

 俺の判断ひとつ間違えば仲間だけでなく、多くの人々が死ぬ。


 ……もしかしてCEOは、今回の指揮すらも俺の資質を見るのに使う気か?


「設営が出来次第、第一・第二歩兵部隊と俺たちはダンジョンに向かいます。第三歩兵部隊は周囲の残存モンスターを処理しつつ、設営部隊の護衛をお願い致します」


 俺は、座り込んで自らの装備を確認する。

 愛用の錫杖、支給品の拳銃SIG M17短機関銃MP5、予備弾倉。

 多目的ナイフ、手榴弾MK3

 防刃防弾素材の戦闘服、自衛隊から横流しの防弾チョッキ3型(改)、膝・肘用プロテクター、防刃手袋。


 ……まだ俺は銃が軽いから、装備は軽めなんだよな。ナナコさんはパンツァーファウストも持っていくから、支援用パワードスーツ使っててもずっしり重そうだからな。


 背嚢にロープや水筒、予備弾薬を入れつつ行動食をチョッキのポケットに放り込む。


 向こうの方ではナナコさんやマイさん達に手伝ってもらいながらアヤが装備確認をしている。

 俺よりも装甲は薄め、武器も少ないが、まだ身長も低く華奢なアヤにとっては重いだろう。


「残存ゴブリン発見! かたずけろ!」

「了解」


 パパパと自動小銃の発射音が響く。

 まだ島内に残存モンスターがいるらしく、臨時指揮所を襲おうとした様だ。


「おにーちゃん、緊張してる?」


 いつのまにか準備が出来たアヤが俺の元にくる。

 俺の手元が止まっているので、心配になったみたいだ。


「……自分の命以外に多くの人の命を抱えるのは、疲れるな。でも、アヤと世界を守る為に必要なら頑張るよ」


 ……気が付くと世界の秘密まで、俺は知ってしまったんだよな。何処まで行くんだろうな、俺とアヤは……。


「ハルおにーちゃん、無理はしないでね。アヤ、皆が幸せじゃなきゃ自分だけ幸せになっても嫌なの」


「……分かったよ」


 俺はアヤの頭をくしゃっと撫でた。


「もー、いつまでも子供扱いなんだからぁ。せっかくまとめた髪の毛がばらけちゃう!」


 文句を言いながらも笑顔のアヤを見て、俺は決意した。

 絶対にアヤを再び泣かせないと。


 ……その為には、今度のダンジョン攻略を成功させないとな。


「ハルトくん。他の皆は準備出来てるよ? アヤちゃんもヘルメット被って!」


「はい、マサアキさん。さあ、アヤ。行こう!」

「うん、おにーちゃん」


 俺とアヤは手をつないで立ち上がった。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ここがダンジョンの入口ですか?」


「ええ、ハルトくん。皆、準備を」


 小山になっている島の中心部、そこにダンジョンへの入り口が存在する。

 俺達に先行して同行歩兵部隊がCQCの動きを見せつつ、ダンジョン内部に続々と入っていく。

 きびきびとした動きでカッコいい。


 ……ここの入り口も地獄門風なんだよな。もしかするとダンジョン・コアはプログラムされたモノを作っていくのかな? ダンジョン内のマップは基本何処も同じらしいし。


「視聴者のみなさーん。今日、わたしナナコはフェイズ1ダンジョンを最後まで攻略いたします。応援宜しくね」


「視聴者さん、僕たちを応援してください」


「アヤ、今日はおにーちゃん達とダンジョン攻略するの!」


「オレはフチ・バイオ後継者として、ダンジョン制覇するぞ!」


 仲間達は全員、ヘルメットに付けられたイルミネーターを使ってダンジョン配信の視聴者にコメント返しをしている。

 よく見ればコントラクターの人達もレンタルしたイルミネーターで色々やっているみたいだ。


「俺もコメント返しするか。あーあー。視聴者の皆さん、俺、御子神みこがみハルトは今日、とある島にあるフェイズ1ダンジョンを攻略します。これには、俺と義理の妹、アヤの運命が掛かっています。応援、支援情報など宜しくお願い致します」


 俺が音声メッセージを俺の配信チャンネルに吹き込むと、一気に視聴者が増える。

 チャットコメントにも多くの言葉が並ぶ。


『頑張れ!』

『アヤちゃんやナナコさんを守れ!』

『パーティにまた女性が増えてる。全員美人じゃねーかー』

『ハルトきゅん、応援してるね』


 コメントをざっと見るに応援の声が大半。

 パーティに女性が多い事に対してのヤッカミの声が二割という感じだ。


「ははは、女性が多くなったのは、俺が関係していないだけどなぁ」


「ハルトくん。僕らも行くよ」

「うん。では、皆さん。行ってきます」


 午前八時、俺は視聴者に一言ささやいて、ダンジョンの入口を踏み越えた。

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