第35話 瀬戸内ダンジョン 攻略戦その1:つるべ撃ち!

「この島全土がダンジョンになっているんですか?」


「ええ。以前、偵察部隊が確認したところ、陸地全部が既にダンジョン化。ゴブリンなどが地表を徘徊してます。あ、まもなく日の出。望遠映像で見えますね」


 俺たちパーティは昨晩大阪を離れ、瀬戸内海をフチナダCEOに手配してもらった船に乗って移動中。

 今は瀬戸大橋を越え、更に西に進む。

 目的地は香川県と愛媛県の境、かつては人が住んでいた島と聞いている。

 夜明け前の瀬戸内海、漁船の灯りや海上にある灯浮標の輝きが目に入る。


 ……この船って民間輸送船っていうより、巡視艇っていうか仮装強襲揚陸艦って感じなんだけど。でも、俺の地元近くにこんなダンジョンが密かにあったのかよ。


 俺が幼少期に襲われ、その後師匠に育てられたのは四国の瀬戸内側。

 中央からの支援や軍隊派遣がかなり遅れ、師匠がいなければもっと酷い事になっていたと後に聞いた


「でも、こんなに大きな船を俺たちの任務だけに人員含めて良く貸してくれましたね。ありがとうございます」


「CEOは、君たちに随分と期待しているって話ですね。私たちも若い子が頑張っているに協力できるのは嬉しい事です」


 俺が話しかけると揚陸艦の船長さんは、機嫌よく返事を返してくれる。


 ……それにしてもデカいって。まるで軍艦だもの。


 てっきり数人が乗れる程度の小舟で島に潜入するのかと思えば、軍艦にも見えかねない船での揚陸。

 島内はフチナダ所有地内なので俺たちが武装するのは問題無いが、瀬戸内海を航行する船に武装は出来ない。

 なので、軍艦に見えかねないが非武装船という訳だ。


 ……その分、偵察・情報支援機能はかなり凄いな。船内に陸戦部隊用の戦闘指揮所CICがあるし。


「これは……。酷いですね。完全に禿山になっているじゃないですか」


「あいつら、木材だろうが鉄骨だろうが周囲にあるものを食べて材料にしますから」


 周囲の島々は青々とした樹木に覆われているが、問題の小島だけは台形の岩だけが見える島になっていた。

 そして岩の上にゴブリンや小型モンスター達が徘徊しているのが、艦橋に設置されたモニター越しの遠距離望遠映像で見える。


「ハルト、島の地上にいるモンスターはどうする?」


「ジャックさん。予定通り射程距離ギリギリから迫撃砲で『掃除』しましょう。支援部隊さんと一緒に準備おねがいします」


 船の甲板上にジャックさんとマサアキさん、俺たちを支援してくれる歩兵部隊が迫撃砲を準備している。

 事前の衛星写真や偵察ドローンの映像から、島の地上全部がモンスターで溢れているのは観測されていた。

 島の南側にかつて使われていた港があるので、そこから揚陸する予定なのだが、邪魔なモンスターを先に片付けないと揚陸中に襲われてしまう。


 ……非武装船だけど、歩兵用火器を積み込むのはOK。ここならフチナダ所有地の側。火砲を撃ってもギリセーフ。禿山で空き家も既に無いから火災の心配も無いし。


 かつて、この島には戦後十数名の島民が存在し、港近くに神社も存在していた。

 だが無人島化して後は、釣り客と神社の維持の人員しか上陸していなかった。

 しかしダンジョンが発生する直前、豊かな森林や無人の家屋も神社も山林火災で全て失われてしまった。

 復興をしようにも、今度はダンジョン化により不可能になっている。


 ……バチ当たりなモンスター共め。早く殲滅して神社を復興しないとな。それに、こんなところでスタンピードして四国を襲われても困る。


「発射準備OK。いつでも砲撃できるよ」


「マサアキさん、ありがとうございます。では、砲撃お願い致します」


 甲板では86ミリ迫撃砲が数機準備されており、二キロ程離れた島に向かって照準が向いている。

 ジャックさんが迫撃砲弾を掴んで迫撃砲の砲口に半装填する。

 そして迫撃砲弾が離され、迫撃砲の底に当たる。

 砲弾の底の発射薬が爆発、パポンという音と共に放物線を描いて島に向かって飛んでいった。


「弾着…………。今!」


 マサアキさんの宣言と共に、島で爆発が起きる。

 五、六秒後に爆発音が俺の耳に入った。


「そのまま、連続攻撃をお願いします」

「了解」


 つるべ打ちに迫撃砲が撃たれ、爆炎とともにモンスターらが宙に舞うのが見えた。


「俺はCICに入って戦果を確認します。着弾は適当に散らして下さいね。特に港周辺を綺麗に『掃除』お願いします」

「了解!」


 俺は、マサアキさんからの返事を通信機越しに聞きつつ、艦橋からCICに脚を進める。

 作戦の第一段階、表層殲滅作戦を確認する為に。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ハルおにーちゃん、ここ凄いね」

「ハルトきゅん、待ってたよ」

「ハルト、早くアタシの出番を造れよ!」

「すいません、ウチのマイちゃんがお馬鹿で」

「ハルト、オレも甲板でバンバン撃ちたいぞ」


 CICにはアヤ達女性たちと御曹司、タダシさんが俺を待ち構えていた。

 部屋全体に沢山のモニターがあり、暗い室内の中モニターからの光のみで照らされていた。


「もうしばらくは『掃除』に時間がかかります。タダシさんは、今から甲板に行っても十分間に合いますよ」


「じゃあ、行ってくる。さあ、モンスター共め。吹っ飛べ!」


 ワクワク顔で甲板に向かうタダシさんを横目に俺は指揮所に座る。

 この先、どうやってダンジョンを攻略するか。

 モニターに表示されたダンジョンマップを前に、再度作戦を練ってみた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る