第20話 フロアーボス、ミノタウロス戦!

「ハルトきゅん、前に出過ぎだよぉ」

「ハルトくん、顔に似合わずに短気なんだから、困ったものだね」

「おにーちゃんのあわてん坊」


 俺がミノタウロスと対峙している間に、仲間たちが続々とボスフロアーに入ってくる。

 倒れている生徒らの元にアヤと教官が向かう。

 俺と並んでナナコさん、側面に回り込む形でマサアキさんが銃口をミノタウロスに向ける。


「しょうがないだろ。目の前で殺されそうになっているのを放置できないんだから」


 俺は視線をミノタウロスから離さず、摩利支天の力で光をまとう仕込み錫杖しゃくじょう剣を構える。



「ぐるわぁぁぁ!」


 真っ赤に燃える眼で俺を睨みつけ、口から泡だらけのよだれをまき散らすミノタウロス。

 俺に攻撃を邪魔されたのが、余程気に入らないようだ。


「うぉぉ!」


 ミノタウロスは右手に構えた巨大な戦斧を頭上に構え、俺に向かって振り下ろす。

 素早いながらも単調な振り下ろし。

 俺は、斜め左方向にステップバックをして攻撃を回避する。

 俺を狙って外れた斧は石造りの床にぶち当たり、破片を巻き取らして大きな傷を床に残した。


「甘い!」


 振り下ろした斧を戻そうとして動きを止めたミノタウロスに、俺は剣で切り付ける。

 また、ナナコさんやマサアキさん、教官も銃撃をミノタウロスに与えた。


「ぐぎゃぁぁぁ!」


 銃撃や斬撃を受けた傷から紫色の流血をしながらも、暴れまわるミノタウロス。

 身長二メートル五十センチを優に超える巨体を揺らし、やっと床から引き抜いた斧を今度は水平に振り回す。


「回避! 危ない」


 俺は上手く斧の一撃を回避するが、脚が遅いナナコさんが斧の攻撃範囲から逃げられない。


「よいしょぉぉ!」


 しかし、ナナコさんは補助腕に装備している巨大な盾で斧をガチンと受け止める。

 そして至近距離から銃撃をミノタウロスに加えた。


「ぐわおぉぉ!」


「ハルトくん、このまま畳みこむよ!」

「はい、ナナコさん」


 ナナコさんが連続して銃撃を加えるので、うずくまり身動きが満足に出来ないミノタウロス。

 俺は側面に回り込んで、錫杖剣に魔力を込め振り上げる。


「摩利支天、太陽剣! やぁぁ!」


 そして勢いよく振り下ろした。

 俺の放つ斬撃は魔力光の刃となり、前に延びる。

 そしてその先に居たミノタウロスを真っ二つに切り裂いた。


「ふぅぅ、やったか。アヤ、俺勝ったよ」


 ミノタウロスが倒れ伏し、マナの塵になりつつあるのを見た俺はミノタウロスに背を向け、生徒たちを救っていたアヤの方を見た。


「危ない! ハルトくん」


 そんな時、俺はいきなり誰かに突き飛ばされた。


「え? 何が」


 俺は、突き飛ばしてくれた相手の方に目を向けた。


「マ、マサアキさん!」


 そこには、笑顔を浮かべたマサアキさんがいた。

 彼の腹部には、死にぞこないのミノタウロスが投げつけた斧が突き刺さる。

 ギャリギャリと音を立て、盾代わりにしていた自動小銃が折れ飛ぶ。

 そしてスローモーションの様に血しぶきを上げて、マサアキさんがふっとんだ。


 ……マサアキさんが、俺の代わりに! くそぉぉ!


「うわぁぁ!」


 俺の頭の中は真っ白になった。

 そして、まだ絶命せずに倒れているミノタウロスをにらんだ。


「死ねぇぇ!」


 俺は、呪文も唱えずに魔力を気弾の形にして死にぞこないのミノタウロスに叩き込む。


「死ね、死ね、死ね、死ねぇぇ!」


 ドスン、ドスンと気弾をミノタウロスに撃ち込む俺。

 トドメとばかりに両掌の間に魔力を最大限ため込み、そのままミノタウロスに叩きつけた。


「ぐぎゃぁぁ!」


 最大級の気弾を受け断末魔の叫びをあげて、ようやく完全に消滅するミノタウロス。

 俺は荒い息を上げて、憎い敵が塵と化すのを見ていた。


「マサおにーちゃん、しっかりしてぇ!」


 俺は、アヤの悲鳴に近い叫びに正気に戻る。

 そして急いで、倒れているマサアキさんの元に駆け寄った。


「ぐぅぅ。やあ、ハルトくん。無事、だ、だったようだね。うぅぅ」


「マサアキさん。どうして俺なんかを庇ったんだよぉ。貴方はこんな事で死んだらダメだよぉ」


 アヤが、必死に治癒魔法を唱える。

 しかし、マサアキさんの腹部からは鼓動と同期して鮮血が吹き出していた。


「僕はね……。元々、ハルトくんやアヤちゃんを守る為にフチナダ上層部から送られて来ていたんだよ。だからね、これは僕の仕事。で、でもね、ハルトくんと過ごしたこの数カ月は、と、とっても楽しかった。本当にハルトくんとは友達になれた気が……してたんだ」


「マサアキさん、もうしゃべらないで。俺も治癒魔法を使います!」


 俺は動転している心を落ち着かせるために深呼吸をした。

 そして印を結び、真言マントラを唱えた。


「ノウモ・バギャバテイ・バイセイジャ・クロ・ベイルリヤ・ハラバ・アラジャヤ・タタギャタヤ・アラカテイ・サンミャクサンボダヤ タニヤタ・オン・バイセイゼイ・バイセイゼイ・バイセイジャサンボリギャテイ・ソワカ! 帰命したてまつる。薬師瑠璃光如来バイシャジヤグルよ、顕現し、傷つき病む者に癒しのお力を与えたまえん」


 俺は薬師如来の呪を必死に唱える。

 俺の真言により、マサアキさんの出血はやや減少する。

 しかし完全に止血も出来ず、このままではマサアキさんの命の火は消えてしまう。


「オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ! オン・コロコロ・センダリ・マトウギ・ソワカ!」


 俺は、必死になって治癒魔法を唱えた。

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