第19話 急変! 突然の救難信号

「後は、このままボスフロアーだね。ハルトくん、アヤちゃん。魔法はまだ使える?」


「俺は、まだ半分以上マナが残ってます、マサアキさん」

「アヤは、何もしていないから満タンだよー」


「わたしも、残弾いっぱいだからだいじょーぶ!」


 俺達のパーティは無事にウメダ・ダンジョン第五層まで潜っている。

 途中出てくるモンスターは大したことも無く、俺は魔法を殆ど使う事も少なく済んでいる。


『このパーティ、凄いな』

『ハルトきゅん、可愛くて強いねー』

『もっとアヤちゃんやナナちゃんの顔を見せるんだ―」


 イルミネーターの動画配信チャットウインドウでは、俺たちの事を褒め称える声が満ちる。


「もー、わたしなんかよりアヤちゃんの方が可愛いよー」


 ナナコさんも余裕があるのか、コメント返しをしている。


 ……このままなら、楽勝でミッションクリアーだな。


 俺は、上手くいき過ぎている事ですっかり舞い上がっていた。


  ◆ ◇ ◆ ◇


「ふん、お前らもここまで来たのか。案外早いな。じゃあ、油断して可愛い子に怪我なんてさせるなよ」


「ご心配頂き、ありがとうございます、御曹司。ええ、絶対アヤには指一本触れさせませんよ」


 後少しで最終目的地、第五層ボスフロアーに到着する頃。

 俺たちは、御曹司たちのパーティとすれ違った。

 彼らは巫女や教官を含めて十人、その上警護役として戦闘サイボーグすらいるのだから楽勝だろう。


「ふん! マスダ、早く行くぞ」

「はい。ふふふ」


 俺が嫌味返しをすると気に入らないのか、不機嫌そうに場を去る御曹司。

 しかし、彼の警護役であるサイボーグ、マスダが俺の顔を見て妙な笑みを浮かべた。


 ……なんだ? まだ、俺に格闘戦で負けたのを恨んでいるのかな?


 俺は、なにか嫌な感じを覚えたが、御曹司のパーティにケンカを売る必要も無いので、前に進んだ。


 そして、しばらく前に進んだ頃。


「ん! 皆、一旦止まって。イルミネーターに注目!」


 前衛で斥候をしていたマサアキさんが立ち止まり、俺たちにイルミネーターからの情報を注目するように叫んだ。


「これはSOS信号? 何処のパーティなんだ?」


 イルミネーターに、真っ赤な警告文字とSOSが表示される。


「児山生徒、ここからは俺が先行をする。SOSが出たのは第五層ボスフロアー。俺達の前には、さっきすれ違った渕島フチジマ生徒たちとの間に二組のパーティがいるはず。そのどっちからからの救援だろう」


 イルミネーターから情報を見たオカダ教官、俺たちの前に進んで急ぎ前に走る。


「ハルトくん、皆。僕たちも行こう」

「そうだね。アヤ、少し走るよ」

「うん、おにーちゃん」


 俺たちは、急ぎ足で教官の後を追いかけた。


「お前ら、大丈夫か?」

「中で教官が足止めをしてくれたので、なんとか。でも、もう一パーティが戦闘をしています」


 俺たちが教官に追いついた時、そこはボスフロアーの前の扉。

 開いたままの筈な重厚な扉が、閉じて・・・いた。


「アヤ、治癒魔法を使うね」


 アヤは、ドア前に座り込み怪我をした箇所を抑え込んでいるパーティに走り寄り、呪文を詠唱した。


「命と共に歩む精霊よ。命の光、風の息吹にて、傷つき心と体を癒したらん」


 アヤが傷跡に手を当てると緑色の優しい光が広がり、出血が止まり苦痛を訴えていた怪我人の表情が柔らかくなった。


 ……アヤが使うのは精霊魔法だったっけ。話には聞いていたけれど、とても優しい感じがするな。


「教官、扉を抑えていたドアストッパーが折れてます! これ、人為的に傷がついてますよ」


 ボス部屋の扉を観察していたマサアキさんが、ドアを開けっ放しにしていたはずのドアストッパーが壊されている事に気が付いた。


「今は中の様子が優先だ。どうなっている?」


「音からして、まだ戦闘中と思われます。どうします? 救援に行きますか、教官?」


 扉に耳を当てたマサアキさんが部屋の中の情報を教えてくれる。

 イルミネーター上での表示でも複数人の反応が部屋の中に見える。


「うむ……。御子神みこがみ生徒、葉桐はぎり生徒と魔法使いが二人もいるし、児山生徒、小日向こひなた生徒も優秀だ。このパーティなら行けるか!? 本部の救援は、まだ二十分以上かかる。じゃあ、このまま行くぞ!」


「はい!」


 俺は恐怖も覚えずに、ボスモンスターと戦う事を喜んだ。


 ……このままミノタウロスまで倒すぞ!


「では扉を解放、固定します。ハルトくん、いきなり飛び出したりしないでよね」


「マサアキさん、俺だって分別がありますよ。いくらなんでも……」


 ナナコさんが重い扉を開ける。

 そしてマサアキさんが新しいドアストッパーを床に撃ち込む。


「俺が先行する。皆は後から入れ!」


 オカダ教官はドアの横で壁を背にして一呼吸。

 その後、一気に中に入る。


「俺も行きます。オン・イダテイタ・モコテイタ・ソワカ!」


 加速呪を唱えながら俺は、教官の支援をしようと扉を潜った。


「あ!」


 俺が部屋の中を見た時、約十五メートル四方のボスフロアーでは多くの生徒、教官たちが血濡れ倒れていた。

 そしてミノタウロスが、トドメとばかりに倒れ伏す女子生徒に斧を叩きつけようとしていた。


「ハルトくん、飛び出しちゃ危ない!」


「やめろぉぉ! ノウマク・サマンダ・ボダナン・オン・マリシエイ・ソワカ! 摩利支天マーリーチー、太陽剣!!」


 元より韋駄天の呪にて加速状態の俺は、マサアキさんの制止を聞かず惨劇を止めるべく錫杖しゃくじょうから剣を抜き、そこに摩利支天の呪を重ねた。

 そして、ミノタウロスの間合いに踏み込む。


「はぁぁ!」


 もう少しで倒れた生徒を切り裂く斧を、俺は光を纏った剣で弾く。

 そして倒れた生徒の前に立ちはだかり、荒い息をしつつ凶悪な面構えで見下ろしてくるミノタウロスと対峙した。


「バケモノめ! 俺が相手だ!!」

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