第14話 アヤとの再会。二人の時間

「うみゅう。わたし、また教官に怒られちゃったのぉ」


「ナナコお姉さん、しょうがないですよ。静かに寝ているのならまだしも、大声で寝言を叫ぶんですから」


「まあまあ。昼からの授業・訓練も頑張りましょう、二人とも」


 今日も三人でお昼ご飯を食べる日々。

 大分慣れては来たものの、やはり大変だ。


「運動して勉強して、ご飯食べたら勉強して運動。俺、忙しくて変な事考える余裕が無いよ」


「自由時間も少ないからね。完全に自由なのは、夕食後から消灯の21時までだから」


「わたし、夜型なのでキツイですぅ」


 三人で学校のオープンカフェにて賑やかに話し合っていた時、周囲でザワっとした声が聞こえた。


「誰、あの子達?」

「すっごく可愛い!」

「あの制服、ウチに併設されてる巫女学校の物だぞ」


 俺は声の方角に眼を向けて、息が止まった。


「うそ……。ア、アヤなのか……」


 俺の視線の先、中学生くらいの女生徒たち、和風な印象を持つセーラー服に身を包んだ少女達が並んでオープンカフェを歩いている。

 そして、俺から数メートル離れたテーブルに座った。

 少女たちの中、そこにいる一人の少女に俺は眼を奪われた。


 亜麻色とも栗毛色とも見える柔らかそうな長い髪を綺麗に編み上げている。

 談笑しながら微笑む大きな瞳は、淡い金色。

 表情はとても幼いながらも鼻筋は通り、小さくも可憐な唇は微笑みをたたえる。

 何処か神秘的な印象を抱かせる美少女が、そこに居た。


「ああ、あの子達は魔法研究所に併設されてる巫女学校の研修生だね。一般教養の勉強にウチの施設を利用しているって話……。え、ハルトくん。もしかして!?」


「どうしたの、ハルトくん。口、ぽかんとしちゃって」


 俺の視線は、一人の少女に集中していた。

 長い手足、華奢ながら女性らしいラインを描きつつある肢体。

 とても柔らかく暖かい笑顔。

 俺が想像していたよりも、何倍も何倍も美しく成長した姿。


「ちょ、ハルトくん。警備の人もいるんだから」


 俺はマサアキさんの制止を聞かず、椅子から立ち上がり少女達が談笑しているテーブルに一歩ずつ近づいた。


「アヤちゃん、それかわいー」

「アヤ、これお気に入りなの。昔、おにーちゃんに貰ったんだぁ」


 ……間違いない! 絶対にアヤだ。


 少女たちのたわいないおしゃべり。

 そんな中で柔らかな笑顔を湛え、幼げにも名前を一人称として話すアヤ。

 可愛いアクセサリーを見せあう姿が、とても微笑ましい。


 ……あ! あの髪飾り、俺がプレゼントした奴じゃないか!


 僕は徐々に、少女の方に歩いて行った。


「キミ。彼女達、巫女に接触するのは遠慮して欲しい」


 俺の前に立ちはだかる屈強な警備員。

 その胸元は、硬いもので膨らんでいる。


 ……アヤが目の前にいるのに、知った事か!


「何、あの人? わたし達に何の様かしら?」

「え……? も、もしかして、おにいちゃん……なの?」


 俺の接近に警戒を示す女の子達の中。

 唯一、アヤは両手で顔を覆い、俺の方を驚きの顔で見て呟く。

 そして、アヤも立ち上がり一歩ずつ俺に近づいてきた。


「間違いない! アヤ、アヤなんだね。俺、ハルトだよ!」


 俺は止まらない涙を拭いもせずに、アヤの前で立ち止まった。

 俺の中では、幼いころのアヤの姿が走馬灯のように繰り返し浮かぶ。


 一番最初に出会い、初恋を覚えた姿。

 俺を追いかけて一生懸命走る姿。

 俺に追いついて、喜び抱きつく姿。

 今、髪に付けているアクセサリーをプレゼントしたときの喜ぶ姿。

 ・

 そして、最後に涙をこぼしながらも迎えを待つと行ってくれていた姿を。


「やっぱり。ハルおにーちゃん! アヤ、ずっと待ってたんだよぉ!」


 またアヤも、俺の手前で一旦立ち止まる。

 そして、大きな金色の瞳が更に大きく見開かれ、涙がぶわっとこぼれた。

 その様子に、アヤの中でも俺の事が走馬灯になっている事が分かった。


「アヤ、アヤ! 俺もずっと逢いたかったんだ!」

「うんうん。おにーちゃん、ハルおにーちゃんだぁぁ! ちゃんと約束通り、迎えに来てくれたんだぁ。おにーちゃーーん!!」


 制止する女の子や警備員を降り払って、一気に俺に飛びつくアヤ。

 俺は七年ぶりにアヤを、ぎゅっと抱きしめた。


「……そうなんだね。ハルトくん。良かったね」

「あの子がアヤちゃんなの? そうか。あんなに可愛い子と引き離されてたら、しょうがないわね……」


 俺の背後で二人が何か言っているらしいが、俺は腕の中のアヤの全て、柔らかさも小ささもいい香りも愛おしさも。

 全部全部を思い出し感じるのに必死だった。


「アヤぁ。アヤぁ。俺、俺。君に逢うために、フチナダに、士官学校に入学したんだ」

「ハルおにーちゃん! アヤね、絶対おにーちゃんが迎えに来るって信じてたのぉ! だからね、ずっとずーっと待ってたのぉ」


 しばらく泣きながら抱き合った俺とアヤ。

 しかし昼休みが終わるチャイムが鳴り、二人が離れなくてはならない時間が来てしまう。


 ……ずっと今の時間が続けばいいのに……。


 俺には、昼からの授業。

 アヤにも昼からの用務があるらしい。


「君たち。事情があるのは理解したが、まずは規則が大事。個人間での連絡については不問とするから、今は離れなさい」


 警備員さん、俺の肩の手に手を優しく置いて、今はお互いに離れる時間と説いてくれた。


「ハルトくん、今はしょうがない。アヤちゃんと再会できたのに感謝して、お互いやるべきことをしよう」

「アヤちゃん、お兄ちゃんに変な虫が付かない様にわたしが監視しておくから安心してね」


 貰い泣きをしてくれているマサアキさん、ナナコさんも俺のそばまで来てくれる。


「うん、分かった。じゃあ、アヤ。俺の連絡先を渡すから」

「おにーちゃん、夜に電話するね」


 俺は、別れ際にIDを書いたメモ用紙をアヤに渡す。

 アヤも同じく自分のIDを俺に教えてくれた。

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