第13話 俺の士官学校生活、開始!

「起床時間! 準備出来た者からグラウンド集合だ!」


「イェッサー!」


 士官学校の朝は早い。

 早朝5時、教官の掛け声で一日が始まる。


「おい、御子神みこがみ。早く準備……出来てるな」


「はい、松下センパイ」


 ……抜かりなく三十分前から起きて、トイレやら歯磨き、着替えは準備済みさ。


 士官学校は全寮制、基本二人部屋。

 一年生は上級生と同室となり、学校生活のイロハを叩き込まれる。


 ……俺の同室は三年生の松下センパイ。怖そうな外見だけど、甘いもの好きらしい。この間、外出時に買ってきたスイーツをプレゼントしたら、嬉しそうにしてたんだ。


 ベットメイクをし、部屋の掃除を軽くした後。

 ジャージに着替えた俺とセンパイは部屋を飛び出す。


 ……なんか、昔の士官学校だと先輩による『台風』で留守の間に部屋のベットが屋外に放り出されているって事もあったとは聞くな。


「遅い! 全員集合に十分も掛ったぞ? 米軍ブートキャンプなら朝は四時前起き。まだ、おまえらは恵まれているんだからな?」


「サー、イエッサー!」


 俺は五分以内にグランドに入れたが、遅い子達がいる。

 ナナコさんは髪がぐちゃぐちゃな様子。

 寝ぼけ眼で最後尾に建物から出てきた。


「それでは、行進後に朝の体操をしたのち朝食だ! 朝食抜きやダイエットはお前らには無関係だ! さあ、動け―!」


「イェッサー!」


 半分眠ったまま、むにゃむにゃ言いながら身体を動かすナナコさん。

 流石、警備兵として勤務していたことがあるので、眠りながらでも無意識に身体を動かせるらしい。

 マサアキさんは、涼しい顔で黙々と運動をこなしている。


「ち、ちきしょぉ。俺が出世したら、教官を首にしてやるぅ」


 ……御曹司は懲りないねぇ。教官に悪口が聞こえているのに。


 フチナダ系列会社の御曹司こと渕島フチジマ タダシ

 彼は高校卒業後に士官学校へ入学。


 本人が周囲に自慢げに話していた事によれば、しばらく他所のご飯を食べて修行してこいと、親に追い出される様にして士官学校に来たらしい。

 本人が勉強が嫌いで、大学に行くのを嫌ったかららしいというのは、マサアキさん情報だ。


 ……にしても電脳化の上に、沢山のアプリ貰った上に護衛やら側仕え付きなのは甘やかし過ぎじゃないか?


 流石に授業中は露骨に護衛や手伝いはしてもらっていないらしいが、朝の着替えや食事の給仕、宿題の手伝いなんかはお付きの人にしてもらっているらしい。

 教官も、御曹司の目に余る行動は指摘をしているが、このところ文句は言ってても問題行動は起こしていないので不干渉らしい。


 ……御曹司、俺に対しても敵視する視線は向けてくるけど、行動は一切してこないからな。


 今思うに、子供を甘やかす親が俺を襲ったコントラクターを雇ったに違いない。

 コネなどを持っていない御曹司が、あの短時間でコントラクターと接触は難しいだろう。

 何より襲ってきたうちの大半は、ただの半分グレ。

 粗悪なリボルバーサタデーナイト拳銃・スペシャルとか、小さな高周波ナイフで武装していただけだった。


 ……俺たちに倒されたコントラクターたちは警察病院に全員送られたそうだけど、今はどうしているのやら。ID無しじゃ国保使えないだろうに。


 俺はラジオ体操をしながら、考え事をしていた。


「そこ、御子神生徒! 集中しろ!」

「すいません!」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「今の世界情勢について、君たちにも再度学んでいて欲しい。世界が大きく変わった『世界の覚醒』事件。あれから十年たち、世界も大きく変わりました」


 朝食後は、授業。

 今は歴史の授業中。

 人類の歴史というのは戦いの歴史でもある。

 過去の戦い方を知り、そこから戦術、戦略を学んでいく。

 初老の教官が教科書を使い、説明をしてくれている。


「そして政府が力を無くし、我らのようなメガコーポが代わりに民衆を守り慈しみ率いるようになったのです。このようになった判例をご存じですか? はい。渕島生徒」


「テクノタイタン判例です! 20XY年、テクノタイタン・ヘビーインダストリーズ社が自社保有の核融合発電炉を環境テログループに襲われた際。自社警備兵PMSCでテログループを全て殲滅、殺害したのを、過剰防衛、業務上過失致死と国から訴えられましたが無罪判決が出た案件です」


 自慢げに教官からの問いに答え、着席する御曹司。

 あのドヤ顔な様子なら、電脳によって調べたに違いない。


「そう、テクノタイタン判決ですね。またゴクラク・グループの難民支援の食料輸送トラックを民兵が襲った際に同じくPMSCが返り討ちにした事案でも、無罪判決が出ています」


 莫大な力を持つ多国籍超大企業、メガコーポ。

 フチナダ、テクノタイタン、ゴクラク、クリムゾン、シュタムラー、金華ジンファ、ニーヴァ。

 他にも多数の会社が世界を経済的にも社会的にも支配しているのが、今の世界。


「全てはダンジョンが生まれたあの日から始まります。ダンジョンNo.ゼロ。シュンガル・ダンジョンでは、今も毎日モンスターが溢れだし、ユーラシア大陸中央部を襲っています」


 中国北部、新疆しんきょうウイグル自治区の北部、中国とロシア国境部に生まれたダンジョン。

 世界初と言われているが真相は不明。

 他の主要ダンジョンも、同日に生まれているからだ。

 しかし、現在世界でもっとも深くて巨大なダンジョンになっていると教科書に書いてある。


 ……中国が陸戦で苦戦した後、航空機からのバンカーバスター地下貫通型核攻撃をしたらしいけど、それが悪手だったんだって。完全破壊に失敗して放射能汚染されたダンジョンに誰も近づけなくなって、後は手遅れになったらしいね。


「ダンジョンは『世界の覚醒』直後には自然発生しましたが、現在はモンスターが最深部から地上に運び出したダンジョンコアを中心に生成します。今、日本には約8つのダンジョンが存在し、大半はフチナダが管理。それ以上の増加を阻止しています」


 朝早くから起きているからか、半分くらいの生徒は船をこいで居る。


 ……ナナコさんが熟睡なのは、まあしょうがないか。


 大学まで学んでいる人からすれば常識だろうから、授業に緊張感が無い。

 しかし、中学校までしか学んでいない俺にしたら、今の授業内容でも興味深い。

 世界で最も深い迷宮、その言葉の響きだけでも俺の冒険心をワクワクさせる。


「ということで、皆さんには過去の失敗を学び、同じ様な愚行を行わない事が大事ですね」


 俺は、机に齧り付くようにして授業に取り組んだ。


 ……アヤ。俺、毎日が楽しいよ。早く、キミに逢いたいな。

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