第9話 楽しい夕食後の闇討ち!

 荷物を預けていたホテルに帰り、背広から僧衣に着替えた俺は待ち合わせをしていたマサアキさんと合流する。

 そして二人、繁華街にあった中国料理店に入った。


「聞いてはいたけど、本当にお坊さんなんだね。ハルトくん」


「これ、師匠から形見分けで頂いたもので、対魔法防御効果があるんです。それに見た目以上に丈夫なので、刃物とかにも強いですね」


 適当に頼んだ中華料理が値段がお手頃なのに美味しくて、舌鼓を打ってしまう俺たち。

 美味しい食事に、会話も膨らむ。


「一昨日のダンジョン氾濫事件を解決したのがキミだったんだね。それでか、ハルトくんの事を教官が妙に気にしてたのは」


「解決したわけでは無いですが、確かに戦っちゃいました。今思えば、女の子を助けるためとはいえ無茶しちゃいましたよ」


 俺がナナコさんを助けた時の事を話すと、興味深そうに聞いてくれるマサアキさん。


「じゃあ。もしかして……。あ、やっぱりネットで話題になってるよ、ハルトくんの事が?」


「ナナコさんが動画視聴者がどーとかは言ってましたが……。げ!」


 マサアキさんが情報端末を操作して俺に見せてくれた動画。

 それは、フチナダ・グループが提供するネットシステムで配信されているもの。

 公認冒険者や企業兵士らが装備するボディカメラからの映像を中継したものだが……。


「はっきりと、ハルトくんの顔が映っちゃっているね。あら、魔法を使って小鬼ゴブリンたちを倒している場面も」


「……恥ずかしいです」


 映像は、俺がナナコさんを助けに入った場面からに編集されており、俺がゴブリンやトロルを倒す場面がはっきりと映っていた。

 そして動画再生数が俺が見ている間にも増加、既に十万を超えようとしていた。


「やっぱり、あんちゃんがそうか。若いのに坊さんの衣装が珍しいって思ってたんだ。あんときはありがとな。ウチの常連さん、あんときの兵士の中に居て兄ちゃんに助けられたって言ってたぜ。これ、おっちゃんからのお礼だ。隣の兄ちゃんと一緒に食べな」


 情報端末の小さな画面から動画を見ていた俺たちを覗き込んできたお店の大将さん。

 小皿に乗せた杏仁豆腐をふたつ、俺たちのテーブルにグイと置いてくれた。


「え? 俺は、別に褒めてもらおうとして戦った訳じゃ……」


「人助けしたのにゃ変わらんだろ、兄ちゃん? 魔法使いなんて珍しいし、大抵メガコーポの元で偉そうにしてる奴らばかり。兄ちゃんは自慢して良いんだぜ、自分はモンスターを倒して多くの人たちを助けたんだって」


「ハルトくん。好意はありがたく受けよう。オヤジさん、またこっちに来るときは贔屓ひいきにしますね」


 俺は、考え無しにモンスターと戦った。

 目の前で人が死ぬのが嫌だったから助けた。

 褒めてもらおうとか、感謝してもらいたかったから助けたのではない。

 自分の為に助けた、自分が気持ちいから助けた、それだけだった。


「ねえ、ハルトくん。試験場で女の子を助けたのも同じだろうけど、君は立派な男の子。僕も友達として誇らしいや」


「……俺、自分の為に戦っただけなのに、喜んで良いんでしょうか?」


「いいじゃないか。自分を助け、その過程で人助けできるなら最高さ」


「……はい」


 その後、頂いた杏仁豆腐はとっても甘くて、何故かしょっぱかった。


「ハルトくん、泣きながら食べちゃ折角のデザートがもったいないよ?」


  ◆ ◇ ◆ ◇


「で、来てますか?」

「うん、ざっと八人くらいかな。幸い、狙撃とかの心配はしなくても良さそうだね」


 食事後、俺たちは直接駅には向かわずに繁華街を歩く。


 ……俺も大威徳明王だいいとくみょうおうの悪意感知の呪を使っているけど、マサアキさんも悪意感知が得意なんだ。


「ハルト君。僕たち、尾行されているよ」


 美味しかった中華料理屋さんから出た瞬間、マサアキさんは小声で俺に伝えてくれた。


「……やっぱりですか」


 道すがら小声で話してくれた事によれば、マサアキさんの「覚醒者」としての能力が「自分への好意・悪意の感知」。

 テレパスの一種で、言語化されている表面思考で自分に対してどんな感情を持っているのかが分かるらしい。


「ハルトくんの心ってお日様みたいに暖かくてとっても綺麗なんだ。義妹いもうとさん、アヤちゃんと早く再会できたらいいよね」


 一言も話していないアヤの事まで言い当てるマサアキさんに俺は驚いたが、そのイタズラっぽいけれど優しい眼を俺は信じた。


「じゃあ、おびき寄せて捕まえますか? 多分、雇い主が誰かなんて白状しないと思いますけど?」


「え? 雇い主なんて決まってるでしょ? 馬鹿ボンボンか、その親に違いないさ。でも、正当防衛だからって相手を殺すのは嫌だよね、ハルトくん」


 そして、俺たちはワザと人気ひとけの少ない方向に足を進めた。

 薄暗い路地に入ったところ、急に俺たちは集団に前後を挟まれた。


「坊主の兄ちゃん。すまんけど、俺らはアンタに恨みはないが死んでもらわなきゃならん。横のにーちゃんは、逃げたら見逃してやるさかい」


 囲んだ連中のうち、リーダー格らしき大男が俺に対して関西弁で宣言してくる。

 いきなり殺しに来るのではなく、俺に対してすまなそうに殺すと宣言する事から暗殺メインの「殺し屋」ではなく、雇われた「荒くれ」「半グレ」とかの類らしい。


「友達を放り出して逃げる程、僕は卑怯じゃないよ。キミたち、フチ・バイオに雇われた『コントラクター調停者』かな? 良いのかなぁ? たかが、社長子息が侮辱されたくらいで殺し屋を雇うなんて」


「マサアキさん、逃げても良いのに……。俺、こいつらくらいなら一人で倒せますよ、全員殺しても良いのでしたら。で、コントラクターって?」


 俺は、頭に被っていた菅笠すげがさを降ろしながら密かに加速呪を唱える。

 そして周囲の気配を図りながらマサアキさんに疑問を聞いてみた。


「コントラクターってのはIDを持っていない人のうち、荒事を仕事にしている何でも屋さんの相称さ。『データ上存在しない人間』が非合法活動をやってるってこと。企業間での暗殺や誘拐・情報操作、企業秘密の盗難・破壊工作に逃がし屋、探偵などなど。IDを持たないからこそ、企業としては切り捨てやすい人達だね」


「そうなんだ。え! マサアキさん。その拳銃は?」


「僕、これでも護身のための射撃くらいは習っててね」


 マサアキさんが懐から拳銃を取り出したのを見て、俺はびっくりした。


 ……マサアキさん、本当に何者なんだ?? 味方だけど気になるぞ?

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