第10話 路地裏での殺し合い! 瞬きするまもなく。

「お前ら、コントラクタープロを舐めるなよ。ガキが世間を甘く見たのを後悔しな!」


 俺たちは、路地裏にて両側から挟まれている。

 敵に背後を見せない様に、お互いの背中を合わせる俺たち。


 マサアキさん側に居る大男は銃、おそらくサブマシンガンを構えて、俺たちに銃口を向けながら挑発の言葉を叫ぶ。

 また彼の周囲には、小さな拳銃や青く光るナイフ持ちの男が三人程。


 ……大男はプロっぽいな。オーラからしてサイバネを身体にかなり突っ込んでる。他の奴らは雑魚? 殺気はあっても、あまり強そうな気配が無いや。


「こっちには逃がさないよ! アンナ、呪文の準備を」

「は、はい、マイちゃん」


 そして俺側には小柄で赤毛をポニーテールにした女性、いや少女と拳銃持ちの男が二人。

 更に背後には目深にローブを被った、体形と声からして恐らく若い女性。


 ……ローブの女性は、発散するマナの強さと質・量からして魔法使いだな。で、雑魚の男らは置いといて、この強気な女の子。なんか変だな? 生命オーラが微弱なのに、妙に殺気が強いぞ?


 魔法使いの基礎技能として、俺は相手のマナ総量を「見る」ことが出来る。

 マナは生命エネルギー、オーラとなって身体から出ていて概ねな強さなんかも判別できる。


 ……外部に漏れ出るマナを制御して強さを欺瞞したり、気配を消す奴らもいるけどな。


「ハルトくん、油断しないで。そっちの小柄な女の子は全身義体、フルサイボーグだ。見た目に騙されないでね」


「マサアキさん。そっちの大男もかなり身体をいじってるみたいだよ。お互い油断しない様にね」


 俺は敵から目を離さないようにしながら、術を練る。

 既に韋駄天いだてんによる加速状態には入っている。

 次に使う呪を選び、俺はマサアキさんに小声で伝えた。


「『夜の太陽』は如何ですか、マサアキさん? すいませんが、そっちは任せます」

「それでいこうかな、任された。お互い死なない様にね」


「ほう。ガキのくせに二人とも妙に戦いなれているな。だがな、大人を舐め腐ったのは馬鹿……」


 ……今だ!


「オン・ソリヤハラバヤ・ソワカ! 千日光波!」


 リーダーらしき大男が、俺たちを舐めた発言をした隙を狙う。

 光量無限大、かつ瞬間発光にした光呪文を、俺は目を閉じて唱えた。


「ぐ。ぐわぁ。眼、眼がぁぁ」

「ま、眩しい」


 サイバーアイすら焼きかねない激光。

 背中合わせ、かつ何の術を使うかを伝えていたマサアキさんは閃光の直後、俺から離れて飛び出した。


「ノウマク・サマンダ・ボダナン・インダラヤ・ソワカ!」


 俺も雷撃呪を唱え、手に持つ錫杖に雷撃を纏わせて目の前の敵に飛びかかった。


「一人、二人!」


 拳銃を持っていた雑魚らは、眼を抑えたまま動いていない。

 容赦なく二人の鳩尾や延髄に、雷撃込みのスタン錫杖を叩き込む。

 そして手落とした拳銃を、路地の向こう側に蹴り飛ばした。


「ちきしょぉぉ!」


 少女型サイボーグが眼を閉じたまま、下品に叫んで俺に突っ込んでくる。

 もしかすれば、視覚だけでなくレーダーを使っているのかもしれない。


 ……サイボーグなら、女の子相手でも手加減しないぞ!


 俺は錫杖しゃくじょうを水平に持ち、鯉口を切った。


「えい!」


 雷を纏った刀身が夜の路地裏に輝く。

 そして俺が放った仕込み錫杖の一閃は、少女型サイボーグの前腕を両方とも切断した。


「……嘘!?」


 少女型サイボーグが驚愕の表情を浮かべているのを見ながら、更に横へ雷光一閃。


「や!」


 彼女の両足を、ひざ下から切断する。

 爺ちゃんから受け継いだ、幾匹ものモンスター達を切り捨てた業物は、サイボーグ相手でも効果抜群だ。


「……きゃ!」


「なに? 何が起きたの? マイちゃん?」


 戦闘の動きに反応できなかった女性魔法使い。

 なんとか視界を戻そうとして涙をこぼしながら眼をまたたかせているが、もう遅い。


「ごめんね」


 俺は謝りながら、錫杖の柄頭を女性の腹部へと雷撃と共に叩き込んだ。


「くぅ!」


 ここまで十秒弱の攻防。


「はぁはぁ」


 無呼吸で戦い、酸欠になった俺は大きく息を継ぐ。

 そして、視界内の敵が全部無力化できたのを確認し、背後に振り返った。


「マサアキさん!? 大丈夫……え、うそぉ」


 拳銃一丁で何処まで戦えるのか。

 俺は、マサアキさんの事を心配していたが……。


「ぐぅぅ」

「いてぇぇ」

「馬鹿なぁ」


 三人の雑魚たちは両膝を撃ち抜かれて、痛みに悶えている。

 たた一人残った大男も片膝を付き、サブマシンガンを取り落として苦しんでいた。


 ……え? 拳銃やサブマシンガンに高周波ナイフ。全部壊れているんだけど??


「ば、馬鹿な。お前らは一体?」


「ねえ、この辺りでお互い痛み分けにしない? 僕、殺しはしたくないんだ。ハルトくん、そっちも大丈夫?」


「う、うん。多分、誰も死んでは居ないとは思う。ちょっと手加減しそこねたかもだけど」


 マサアキさん、何事もなかったかのような顔をしつつ、拳銃の弾倉を入れ替えている。


 ……銃声って数発しか聞こえなかったよな。もしかして、一瞬で全員の膝下を撃ちぬいた上に武器破壊したのか!? マサアキさん、貴方は本当に何者なんだ??


「ク、クソガキがぁ! コントラクターを、大人を舐めるなぁ!」


 大男は膝から血が噴き出ているのにも関わらず、強引に立ち上がり、腰から抜いた大型ナイフをマサアキさんに突き刺そうとした。


「はぁぁ!」


 俺は術では間に合わないと、マナを術の形にせずに掌から気弾として撃ちだした。

 また、マサアキさんは無造作に拳銃を構えたかと思うと、大男の胸に目がけて発砲。

 またたき一つくらいの間に何発も撃ち込んだ。


「ぐはぁぁ!」


 男は俺の「気弾」とマサアキさんの銃撃を受けて、ばたりと路地裏の地面に倒れた。


「え。ハルトくん。今の術って、もしかして『かめは』……」


「そ、そんな感じです。威力は大きくないんですが、呪を練るよりは発動が早いので……って、マサアキさん! どんだけ拳銃での戦闘に慣れているんですかぁ! あ。そこの大男、死んじゃいましたか?」


 呑気に俺の気弾をワクワク顔で問いかけるマサアキさんに半分呆れるも、俺も疑問を彼に投げかけた。


「僕の事は、まあ秘密ってことにしといてよ。さてと……。予想通り、セラミックプレートを着込んでいたんだね。皮膚下装甲もあるようだし良かったよ、なら死んでいないよね」


 倒れていた大男を覗き込み、首の血管を触って脈を確認しているマサアキさん。

 その手際の良さに、俺は言葉も出ない。


 ……確かに胸から出血は殆ど無いな。でも、防具越しでもあんだけ集弾して喰らったら衝撃で肋骨くらいは折れているかも。


 大男の胸を見ると、弾丸が防具に開けた穴は一個だけ。

 全て同じ場所に叩き込む神業を喰らったのだろう。


「街中での護身用だから跳弾防止用の重金属配合フランジブル弾だったんだ。防弾プレートを貫通しないから死なないとは思ってたけど……。あ、警察が来ちゃったみたい。サイレンサー無しに銃を撃ったら、銃声で監視システムに発見されちゃうよね」


 戦闘終了直後、パトカーのサイレンが鳴り、俺達は押っ取り刀で駆けつけた警官たちに捕縛された。


 ……正当防衛で誰も殺していないんだから、牢屋行きは勘弁してほしいけど。

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