第8話 逆恨みからの格闘試験。

 何故か、サイボーグ化された男と模擬近接戦をする事になってしまった俺。

 夕日に照らされたグラウンドには、俺とサイボーグ戦士の二人を囲むように受験生たち、そして審判員役のオカダ教官が観客として見守っている。


「ふんふん! お前、御子神みこがみとやら。降参するのなら今のうちだぞ?」


 フチナダ系列会社の御曹司のお付き、マスダと呼ばれた男が警戒にステップを踏みながらアップをし、俺に挑戦的な視線を向けつつ降伏勧告をしてきた。


「今回はあくまで試験の一環で試合。お手柔らかにお願いしますね。マスダさん」


 俺は借りた木製の杖をくるくる回しながら、マスダや奥に居る御曹司の敵意を適当に受け流す。


 ……フチナダ関係者に逆恨みされたのは失敗だったか。でも、女の子を泣かしたままなのは嫌だったしな。


「ノックアウトされても俺はしらんからな。教官、いつでもどうぞ」


 鈍く光る金属製サイバーアームの拳をカチンとぶつけて、俺を尚も挑発するマスダ。

 彼の左目から赤い光も見える。


 ……足さばきとから見るにボクシングスタイル? なら、足元狙いが有効か!


 俺は師匠に教わった戦い方を思い出しながら、呪による加速状態の脳内で戦い方を組み立てた。


「こちらもいいです」


「そうか。これはあくまで試合。お互いに急所攻撃は無しだぞ。では、試合開始!」


 オカダ教官が上にあげた手を降ろすと同時に、マスダは軽いステップで俺に迫って来た。


「ふ!」


 銀の拳が俺に迫るが、韋駄天いだてん呪による加速状態の俺には止まって見える。

 俺は、簡単に杖でパンチの軌道を逸らした。


「ふ! ふ! ふ!」


 息をこまめにしながらステップをしつつ、俺に左右ジャブの連打をしてくるマスダ。

 銀色の拳をまともに喰らったのなら、俺の顎は砕けてしまうに違いない。


「このガキが生意気に! オラオラオラ!」


 しかし、俺が杖で拳を上手く受け止めたりさばくのに怒ったマスダ。

 今度はジャブでは無く、重い腰の入ったパンチの連打をしてきた。


 ……こりゃ杖で受け止められないか!


 軽いジャブならいざ知らず。

 重い金属製の拳を受ければ、木製の杖は折れかねない。

 俺はバックステップをしながら、拳をかわした。


「ちょこまかとぉ! 死ねぇ、ガキィ」


 苛立つマスダ。

 れたのか一気に踏み込んできて、俺の顔に目がけてテレフォンパンチ気味の右ストレートを撃ちだしてきた。


 ……ここだ!


 俺は、くるりと回した杖でストレートパンチを流す。

 そして流れで前に踏み込みつつ、杖の反対側でマスダの鳩尾をドンと突いた。


「ぐぅ!」


 カウンター状態になって、杖が腹部にめり込んだマスダ。

 呼吸が一瞬止まった彼が躊躇ちゅうちょしたところを、俺は一気に攻めた。


「は!」


 めり込んだ腹部から上に杖を跳ね上げる。

 勢いよく上に跳ね上がった杖の端は、マスダの顎に当たってそのまま空に舞う。


 後は、仰け反ってしまったマスダの脚を杖でくるりと払い、転がせば俺の勝ち。

 俺は、仰向けに倒れたマスダの喉に杖の先を突き付けた。


「勝負あり! 勝者、御子神くん!」


「うわぁぁ!」


 周囲の受験生から歓声が上がる。

 また御曹司からは、更に痛いほどの敵意ある視線が飛んで来た。


「ち、ちきしょぉぉ! お前、インチキしたんだろ? 魔法使いがそんなに早く動けるはずがない!」


「そうですね、御曹司。確かに、俺は加速呪文を使わせて頂きました。貴方がたがサイバネや電脳を使うように、これも俺の『力』なので違反では無いですよね、教官?」


「ああ、確かに違反ではない。相手が魔法使いと知りながら、勝負前に魔法の使用について確認しなかった増田くんや渕島くんが悪い。しかし、見事な杖捌き。御子神くん、自分も感心したぞ?」


 悪あがきに俺がインチキをしたから悪いと御曹司は言うが、生身相手にサイバネで攻撃する相手が言う台詞ではなかろう。

 マサアキさんが言っていた通り、自分が使える力を使っただけ。

 それはお互い様なのだから。


「く。くそぉ。今に見ていろよ、ガキがぁ。マスダ! 何時までも伸びていないで起き上がれ! お前、再度訓練のし直しだぁ!」


 俺に対して負け惜しみを言いながら、配下に当たり散らす御曹司。

 もし士官学校に入学できたとしても、こいつと付き合うかと思うと俺は面倒だなと感じた。


「ハルトくん、凄いよ! まさかサイボーグに勝っちゃうなんて。これで合格間違いなしだね」


「どうなんですかねぇ。ただ、あの御曹司にずっと嫌味言われたりするのは俺、困るんですが……」


「ははは、それは確かに」

「笑いごとじゃないんですよ、マサアキさん」


 俺の肩を軽くたたきながら嬉しがるマサアキさんの顔を見て、俺は苦笑した。


「全員、試験お疲れだった。この後、上層部で試験結果を精査して合格者を選ぶ。後日、各自のID宛に結果と入学手続きが送られてくるから、それに従え。それでは、解散!」


 教官から解散命令が出され、俺たちは着替える為に更衣室に向かう。


「ハルトくん。今日は、これからどうするの?」


「そうですね。今回は、地元に一旦帰ろうかなと思います。新幹線なら今日中に帰れますので」


「なら、夕食を一緒に食べない? 僕もこれから家に帰るだけだし」


 俺は背後で御曹司らからの視線を感じながらも、マサアキさんからのお誘いを受けた。


 ……闇討ちには注意しとくか。御曹司が逆恨みしそうだからな。

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