第6話 妹の親友 〈後編〉

「ただいまー」

「おかえりなさい、お姉ちゃん––––って、あれ?」


 私の声に小型犬みたいに跳ねてお出迎えをしてくれた風ちゃんは、私の横にいる白帆を見て目をまん丸にした。


「どうしてお姉ちゃんと白帆が一緒にいるんです!?」


 口元で目一杯右手を広げて驚きを表現してくれる風ちゃん。誕生日とクリスマスが同時に来た! みたいな反応でとてもかわいい。


「さっきね、たまたま––––」

「それはね、今日から私もこの家の一員になるからなの」


 私が説明しようとすると、白帆がそれを強引に引き継いだ。嘘を以って。


「だからよろしくね、風花、それとお姉ちゃん」

 何を言ってるのこの子はと見つめていたら、眠たげなままいたずらっぽさを含んだ瞳がこちらに向けられた。


 ……どういうリターンをお望みで? え、もしかして本当に宿利家の一員になりたいの? やっぱりお金持ちって色々面倒なことがあるの?

 などと諸々アイコンタクトで問いかけるも、白帆の表情はまた読めない眠たげなものに収束してしまう。


「む、むむぅ……」


 読めない白帆に気を取られていたら、悩ましげな風ちゃんの声が聞こえた。見ると顎に梅干しをつくって涙目の妹の顔があった。


「風ちゃん!? どうしたのっ!?」

「あの、ですね……えっと」


 心配で大きな声が出た。そんな私に風ちゃんは、小ちゃなお口で一生懸命理由を説明してくれた。


「白帆と家族になれるのは、とてもとても嬉しいんです。嬉しいのですが……風花は、お姉ちゃんを独り占めしたいという気持ちもあるのです。お姉ちゃんになりたいと思うときもありますが、やっぱり今はまだお姉ちゃんの妹は、風花一人がいいんです。どうしましょう?」


 うるうる、という言葉が擬人化したら、きっとこんな感じで上目遣いをしてくるんだろうなというような、見事な上目遣いだった。

 ていうか、なんてかわいいことで悩んでいるんだこの妹は!!

 私は思わず右手で左胸を抑える。動悸がする。

 妹の眩さから目を逸らすと、白帆が私をじっと見つめていた。必然的に目が合った。


「ほらね、似ているの、風花と緋衣花」


 相変わらず眠たげな瞳で、真意を覗くことは難しい。

 だけどこの言葉が、冗談だったり、私たち姉妹をバカにしているわけではないことはわかった。

 そう言う白帆の口角がほんの少しだけ、優しく上を向いていたから。


 いい友達を持ったね、風ちゃん。


「安心して、風花。冗談なの。緋衣花の妹は風花だけなの」

 私が心で呟いたのと、白帆がネタバラシをしたのは同時だった。


「なんと! ほんとです?」

「本当なの」

 白帆の頷きを見た風ちゃんは、私にも確認の眼差しを向けた。私は明るく答える。

「ほんとだよー」

「ほっ」

 風ちゃんはわかりやすく胸を撫で下ろし、白帆に向き直った。


「白帆、今はまだむずかしいですけど、家族になってほしいときがきたら、言いますね」


 にっこりと笑う風ちゃんに、白帆はあくびでもするみたいにゆったりと問い返す。


「……それって、プロポーズ?」


 ほわっ。え、貴女たちそんな関係だったの? お姉ちゃんびっくり!


「? ぷろ? 果物か何かです?」


 まあ、そんなわけはなく。

 私と白帆は二人で風ちゃんにプロポーズとは何かと説明した。

 風ちゃんが理解した頃には、どうしてこの流れになったか、みんなどうでもよくなっていた。



     〈第6話 了 〉

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私の妹は見た目だけ……。 みとたけねぎ @mttkn4g

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