狼煙
どれだけの攻撃を受けようとも、決して揺らぐことなく平然とした態度を見せる僕は呆然としている魔神の前にまで舞い戻ってくる。
「……ありえ、ない。この我が本気で叩いたのだぞ?なのに、何のダメージもない、など」
恐らくは無意識であろう。
魔神の身体は僕を前にして静かに震えていた。
「本気?あの程度が本気だというのか?ウォーミングアップではなく」
「……ッ!」
僕の挑発を受けて魔神の相貌に怒りが浮かび、震えが止まると共に敵対心も強くなってくる。
「我を舐めるなぁッ!!!」
そして、魔神は再び僕へと迫るために僅かな動きを見せる。
「遅い」
だが、そんな動きを見せるよりも前に僕が魔神との距離を詰めて肘内を叩き込んでそのまま彼女を地面にたたきつける。
「あぅ……あぅぅぅ」
僕からの一撃を受け、地面に倒れ伏しながら鼻血を垂らす魔神の前へと僕は静かに舞い降りる。
「どうだ?神。人の一撃は」
「くっ!」
平然とした態度で言葉を告げる僕に対して魔神は四本ある腕を器用に使って跳躍しながら起き上がって地面へと足をつける。
「な、舐めるな。人の子よ。この程度、さしたる痛手でもない」
「そう。それなら良かった。それじゃないとゲームがちっとも盛り上がらないからね。今、僕は自分の実力の四分の一もだせていない」
「……は、はぁ?」
「とはいっても、あまり全力でやることがないからいきなりは本気でやれないし……これからは半分くらいの力で戦くことにしよう。このまましばらくウォーミングアップに付き合ってくれ」
「は、ハッタリだ」
僕の言葉に対して魔神は言葉を吐き捨てる。
だが、残念なことに僕は嘘なんて言っていない。
「……獅子搏兎。ライオンはウサギを捕まえるときですら油断せず全力を出す」
「だから、何だ」
「だが、これは狩りですらない。お前の贖罪だ。僕の友であるミュートスの嘆きと、彼女を慕っていた民衆の痛みをしれ」
「な、舐めるなぁ。人の、子が!」
しっかりとミュートスのことも忘れていない僕は淡々と魔神へと恐怖をぶつけていく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「……」
そんな僕に対して魔神は息を切らしながら四つの腕で構えを取るのだった。
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