事情

 ミュートスの告げた言葉。


「ど、どういうことなの……それは?」


「え、えぇぇぇぇ!?ちょ、えっ!?」


「……それは」


「そ、そんなことがあるの?」

 

 それに対して四人が困惑の声を上げる。


「なぁーるほど」


 そんな中で僕はエウリアが何をやったのか理解する。


「私がここに来たのは魔神からの連絡があったからです……荒れ果ててしまった私の領地、それを、元に戻したくは、自分の身を捧げるのだと言われたのです。私だって、魔神に体を捧げたくはありません。ですが、既に一度は諦めた命なのです。民のために捧げるのであれば何も後悔することなどありません」


 随分と、意地の悪いことをするじゃないか……なぁ、魔神。

 僕は焦ったような表情を浮かべている魔神に対して視線を送り、余計なことをしないように警戒を強めていく。


「……だから、お願いね?」

 

 そんな間にもミュートスは全員に対して声を届け、その事情を話し終えて……自分の体をその手で押さえているマリーヌへと声を届ける。


「私に、……行かせて、マリーヌ。私は、みんなを助けたいの。そのためなら……この命の一つや二つくらい軽いものなの」


「お、お姉ちゃん……」


 ミュートスの覚悟を見て思わずマリーヌはその手を離し、呆然とその名を呼びにとどまる。


「駄目だよ。ミュートス」


 だが、今度はマリーヌの代わりに僕が悲壮な自己犠牲を見せようとする彼女の肩を叩いて止める。


「と、止めないでください……!私の、私のせいで彼らはあんな姿になってしまったのです!今、今すぐにでも開放してあげないと!たった、一人でも助けられるのなら私の身体なんてなくなっても良いんです!」


 ミュートスの民を愛する心にその自己犠牲は実に美しいものである。


「……駄目なんだ。君の自己犠牲は、意味がない……あれはもう、人には戻れない。


 だけど、そんな自己犠牲は無意味と終わる。


「……えっ?」


 僕が、ミュートスからほぼ無意識で視線を外しながら告げた言葉を聞いて、ミュートスは呆然と言葉を漏らすのだった。

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