生贄

 爆発の際に舞い上がった煙が晴れたとき。


「……なっ、何時の間に」


 ようやくになって僕がミュートスを連れて既に退却済みであったことに魔神が気づき、驚愕の表情を浮かべる。


「僕は別に一切の魔力も使わずにここまでくることができるのでな。いくら必死に魔力感知をしようと心がけていたも何の意味もない」


「そ、そんな人間がいてたまるか!?」


 僕の言葉を聞いた魔神は目を見開いて驚愕の声を漏らす。


「そんなこと言われても出来るものは出来るもの」


 前世の段階から僕は一回からジャンプで三、四階にまで直接行くことが出来た。

 今の僕はそのころから少しだけ成長してジャンプで五、六階にまで行くことができる。一切の魔力バフなしで。


「ど、どうなっているんだ……ッ!」


「……なんというか、貴方の方が神ね。魔神を一蹴し、出し抜き、人とは思えぬ身体能力を持つ。化け物じゃない」


 完全に放心してしまっているマリーヌとリリスに、何が起こっているのか未だにわからずおどおどしているフィア。

 そんな中で一人、冷静なグリムが半ば呆れながら声を漏らす。


「魔神とか、我々歴戦の龍でも戦うのがつらいけど、そもそもネージュは私を一蹴しているものね」


「……ッ!そこの龍族!たかがトカゲ風情が我ら神に匹敵するつもりか!」

 

 それに魔神が強く反応し始める。


「あら?なら、その尊大な神様はさっさとただの人間くらい倒して見せたらどう?」


「……お、お前も負けているのであろう!と、というかあの人の子は本当に人であるのか!?」


「……うぅん?」


「勝手に僕を蚊帳の外にしないで?そして最後の結論で僕が人であることを疑わないで」


 僕は言葉を交わす魔神とグリムの間に入って声を上げる。


「じゃあ、サクッと魔神で遊んでくるよ」


「ご、傲慢な人の子よ……」


「待ってください!」


 ミュートスを連れてやってきた結界の中から魔神の方へと向かおうとした僕を当の彼女が止めてくる。


「私があの魔神の身体として自分の身を捧げます!それでもう良いんです!」


「なっ……!?どういうことなのお姉ちゃん!?」


「……なんで急に?」


 既にもう自分の身を捧げる満々のミュートスを前に僕は首をかしげるのだった。

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