避難

 怒りを抱く魔神。

 それを前にしても決して、僕がブレることはない。


「僕の知り合いの体を乗っ取るというなら認めるわけがいかないだろう」


 流石に魔神のために自分の知り合いを差し出すつもりはない。


「……自分で大量に作っているクローンに君が大人しく入ると言うのならそれ良いのけど」


 だが、魔神も魔神で惜しい。

 魔神はかなりの外道だろうが、そんなことを言ったら僕だって結構な外道である。

 人のことを言えない僕はどこまで行っても神への興味が薄れない。

 これで魔神がさっさとミュートスの体を諦めて僕のクローンにでも受肉してくれるというのなら敵対は辞めて僕の研究所に引き込みたいところなのだが。

 僕の持つクローンの数は膨大だ。

 ほとんど人間のようなものだし、魔神だって気に入ってくれるだろう。

 ふへ、ふへへ……そしたら僕のラボにぃ、これは、これはこれはとても研究がはかどるだろうなぁ。


「だ、誰が人の子が作った肉体に甘んじて入る神がいるのだ!我が選び、決めた肉体に入るのだ!」


 だが、魔神は最初の頃にあった尊大な態度を完全にかなぐり捨ててまるで子供のような癇癪と共に殺意を溢れさせる。


「そうかい……でも、だからと言って僕は君の考えになんて乗らないけどね」


 出来るだけ戦いたくはない。

 魔神なんて言う最高の素材を前にしてそれをぞんざいに扱うようなことはしたくない。

 だけど、仕方ないかな。


「とりあえず失礼」


 僕は自分の後ろにいるミュートスを抱きかかえて持ち上げる。


「人先ずはこのまま逃げるよ」


「あっ、まっ!」


 そして、僕は転移魔法を発動しようとする。


「させるかぁぁぁぁ!!!」


 だが、それを邪魔するべく魔神は魔法を発動させ、僕の方へと飛ばしてくる。


「……」


 それを僕は冷静に魔法で撃ち落とし、爆発を引き起こさせる。

 それと共に爆発の際に溢れた煙がその場に充満し始めていく。


「……馬鹿だろ、普通に」

 

 そんな中で僕は魔法も一切使わずに肉体でマリーヌたちを隔離している結界の方にたどり着くのだった。

 必死に煙の中で魔力の発動を探っている魔神を出し抜いて。

 

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