いただきます
「な、何なのだ!?この人の子は!いくら回復魔法と言えども肉片一つ残さず消し去っても平然としている男など我は知らぬぞ!」
あっさりと再生してみせた僕に対して魔神は驚愕の声を上げる。
「はっはっは!この程度で驚かないでくれ、風よ」
そんな魔神の言葉を一蹴して見せた僕は腕を振り、魔法を発動。
風の刃を世界に走らせ、魔神の四つあるうちの一つを斬り落とす。
「よっと」
それを転移で回収した僕は魔神の腕を見上げる。
持った感じは非常に軽い。
まさにミイラのような腕であり、完全に乾燥しきっている。
「結構、すべすべだな」
腕を少し撫でればその感触はかなり良く、そんな腕に一筋の切れ込みを入れても血は流れてこない。
血管はあるのだが、肝心の中を通る血液は流れていないようだった。
「本当に器でしかないのか」
魔法でもって己の目に映るものを拡大し、その腕に細菌がいるかどうかを確認するのだが……その姿は一切捉えられなかった。
「では、いただきます」
ひとしきりの観察を終えた僕は、魔神の腕の一部を引きちぎって自分の口の中へと放り込む。
味は、特になし。触感も特にないな。噛むまでもなく唾液でするりと流し込めた。
あー、でも見た目はただの死体のくせに鼻の方へと抜けていく匂いは普通に良い匂いだな。柑橘系の良い匂いがしている。
女子がつけていそうな香水を魔神はこの見た目でつけているのだろうか?
「な、何しているのだ……?」
僕は丹念に味わいながら魔神の腕のの一部を胃の中へと収める。
「あっ……ガァァァァァァァァァァアア」
それと共に僕の体の中から燃え上げるような何かが溢れ出し、つい悲鳴を上げてしまう。
「な、何なのだ……本当に、この人の子は。け、獣であろうとももっと考えて食すだろう」
「ァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
悲鳴を上げながらも僕は自分の中で膨れ上がる何か、神の肉体より這い上がってくるものを堪能する。
「あの少しの肉体で、何人の魂が……くくく」
僕の中で膨れ上がったのは、人間の体を拒絶する神の持つ神力である。
だが、それによる影響はほとんどない。
どうやら魔神が持つ力のほとんど僕たち人間も持つ魔力であり、わずかに神力が混ざっている程度。
この程度の神力であれば一切問題のだが、面倒なのは僕が取り込んだ魔神の腕の一部に宿っていた人間の霊魂。
他者の霊魂が僕の中で大暴れしているのだ。
「あの肉体はどれだけの死体で構成されているのだ?」
あの僅かな肉片の中にたくさんの人間の霊魂があったのだ。
それでは、全身だとどれだけの量があるのだろうか……そんなことを考える僕はそっと魔神の方へと視線を向けるのだった。
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