黒い粘性人型実体

「ここにマリーヌがいようがいまいが我には関係ない。我は我が体を貰いに行くまでである」


「……なんで、今更になって」


「……どうなっているのよ、ゲームのルートは」


 一年。

 魔神であるスピリトが動くまでにかかるとされていた時間である。

 だが、その期間が過ぎても一向にスピリト動く気配はなく、ここに至るまで一切その姿を見せていなかった。

 ゆえに、完全に頭の隅へと追いやっていた存在が魔神である。


「ゆくぞ、エウリア。貴様のせいで遅れたものを回収しに行く」


 そんな存在は完全に掌握しているであろうエウリアへと命令を下し、僕たちの方へと背中を向ける。


「ほれ、叩き潰せ。愚鈍ども」

 

 それと共にこれまで動きの一切を止めていた黒い粘性人型実体が動き出す。


「きゃっ!?」


「……ッ!」


「え、エウリア!!!」


「わ、わわぁぁぁぁぁああああああ!?お、お助けを!自分は空気ですぅ!」


 黒い粘性人型実体。

 僕たちへと初めて襲い掛かってきた彼らは父上を撃退するに相応しいだけの実力を有しているようで。

 そんな存在に襲い掛かられた四人は悲鳴を上げる。

 それを横目に魔神はエウリアを連れたってこの場から離れようとするではないか。



「まぁ、待てや」



 だが、そんな存在を前にして僕が逃がすわけがない。

 飢えたるこの僕を放置するなんて許すわけがなかろうて。


「ふぅー」


 今度は簡単に破壊されないように強固な結界を張巡らせ、自分に覆いかぶさっていた黒い粘性人型実体も、四人へと襲い掛かっていた黒い粘性人型実体も、その悉くを魔法を使って一撃で吹き飛ばし、その他の黒い粘性人型実体も大規模な魔法で地面へと叩きつける。

 半分くらいは潰れ……もう半分は残っちゃったか。

 まぁ、それでも動けはしないだろうし、良いだろう。


「……いや、駄目だなぁ。僕は四分の一だけ残すつもりだったのに、目論見を外している時点でよいことはないだろう」


 物事はやってみなくてはわからない。

 だが、物事がどうなるかなど事前に99%を予測することくらい容易い。

 明らかに今回の件は僕の詰めの甘さの露呈である。


「くくく……あっはっはっはっはっはっは!」


 だが、それもすべて。

 目の前にいる魔神が生み出した魔神の者だと考えればココロオドル。


「あぁ……目の前にいるのは魔神。神の名を冠する存在だぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!いいね、良いねぇ、良いねぇぇぇぇ!踊ってくれるよ!神様さぁ!」

 

 僕は笑みと共に言葉を告げる。


「……なんだ、あの人間は」


「いいねぇ……その視線。魔神が見せるその反応、そのすべてが良い」


 魔神からの視線を受ける中で、僕は笑みを深めるのだった。

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