正体
新しく現れた存在。
それはひどく痩せ細った体に黒の皮膚、三対の腕、二対の目、一対の角を持つ、そんな怪物であった。
薄汚れた黒の体を覆う同じく黒の衣装によって隠されるそのがりがりの身体の中で、唯一の豊穣を持つその乳房から見るに、その怪物は女であることは推察出来るものの……それだけだ。
「お、お、お前は……お前はッ!」
いきなり現れ、僕の結界を完全に破壊してみせた怪物。
そんな正体について、語ったのは目の前の怪物を前に体を震わせているリリスでも、ただただ表情を伏せているエウリアでもなく。
「魔神ッ!」
僕の側にいたマリーヌである。
「ほう?汝は我が新しき供物の血族ではないか。息災たるか」
魔神。
そう呼ばれた存在はマリーヌの方へと視線を送ると、彼女を明確に認識しながら言葉を話す。
「なるほど、なるほど……なぁーるほど」
僕は目の前にいる怪物とエウリア、それにマリーヌの存在を確認して納得が言ったように頷く。
「エウリア。お前、禁忌に手を出したな?死を前に、それを跳ねのけやれる奴を求めてリリスの時のような召喚を行い、そこにいる魔神を呼び出しやがったな?」
「……ッ!」
「そ、そんなことを!?」
僕の言葉にリリスとエウリアの両方が驚愕の表情を見せる。
「神である魔神がこちらの世界にいるために必要な供物、人間の身体も共に転がっていたであろう。人間にタコ殴りに殺されたのであれば……だが、新鮮な肉体を手にすることに魔神は失敗したな?多分、エウリアが己の前にいた人間の死を願って召喚をしたことで自然と魔神は己の手で全滅させてしまったのだろうよ。死者の肉体であればさぞ動きにいくいであろう」
魔神は召喚者の願いを叶えることを契約としてこちらへと現れ、そのまま留まるためには肉体を欲する。
そんな魔神は召喚と共に契約でエウリアの周りにいた人間を殺害。
そして、己がこの場に留まるために人間の死体をかき集めて自分の肉体としたのだろう。
「面白き人ではないか。何も知らぬ身でありながらここまで明確にわかるか」
「だろう?まぁ、マリーヌの姉であるミュートスの体を魔神が欲しているという話を知っているがゆえに僕はわかりやすかったがな」
魔神が肉体として欲するのは人間の身体だ。
死体であれば不足だろう……ゆえに、新たな身体としてミュートスの体を求めていたのだろう。
「問題は何故、エウリアが肉体とされていないのか。何故、肉体探しがこんなにも遅いのか。少なくともロムルス家の歴史分の時間があったのだからな。まぁ、そこらもわかる。巫女になったのだろう」
ここまで来ればエウリアが何であるかもわかる。
ついでに魔神が動き出すのが遅い理由も。
魔神と繋がりある巫女へとエウリアがなり、そのまま彼女がこれまで決死の覚悟で魔神の動きを閉じていたのだろう。
「なるほど、なるほど、なぁーるほど」
まとめると、ここは最高の場所ってことじゃないか。
僕は心の底から笑みを漏らすのだった。
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