久しぶり

 マリーヌとフィアを応接室の方へと待機させている間、父上の執務室で会話を交わしていた僕はそのままその執務室を出ると、二人が待っている応接室の方ではなく、久しぶりに会うお姉ちゃんの部屋へと向かっていく。


「入るよぉー」


 お姉ちゃんの部屋の前へとやってきた僕はそのままノックのせずに部屋の中へと入ってくる。


「わわっ!?」


 それに対して部屋のベッドの上で体を横に倒していたお姉ちゃんは慌てながら大きな声を上げて視線を扉の方へと向けてくる。


「……あっ!ネージュぅー!」


 そして、僕の姿をその視界に映したお姉ちゃんはそのままオタクとしての気持ち悪い、だらしない笑顔を浮かべる。


「久しぶりだね」


 だが、そのだらしない笑顔は直ぐに引っ込んで、さわやかな笑顔と共に僕へと挨拶してくる。


 お姉ちゃんにとってネージュというゲームのキャラは最推しだったらしく、それが理由で彼女は僕に対して気色の悪い反応を見せていた。

 だが、長く姉弟として過ごし、僕の中身が自分よりも年下の現代日本人だということを知ったお姉ちゃんは僕に対して随分と複雑な感情を持っているようで、未だに彼女の僕への対応は一貫性がないように見えていた。

 お姉ちゃんも本当に色々と複雑なのだろう、この世界で十数年と生きる中で前世の記憶も薄れてきているだろうし。


「うん、久しぶり。けがを負ったらしいけど、大丈夫だったの?」


 そんなお姉ちゃんが寝ているベッドにまで近寄った僕は彼女に疑問の言葉を投げかける。


「もっちろん!全然大丈夫だよ!私は元気だから、心配しなくて良いよ」


 僕の言葉に対してお姉ちゃんは元気にサムズアップしてみせる。


「それなら良かった……また、あそこに行って戦うことは出来る?」


「い、いや……それは、うん!ネージュの頼みであればもちろんできるよ!」


 僕の言葉に対してお姉ちゃんは一瞬、どうしようか悩ましいような表情を浮かべたが、すぐにそれを切り替えて問題ないと断言する。


「なるほど……」


 こうして、寝ているお姉ちゃんをパッと見でみれば全然本調子ではないな。

 案外、ボロボロだ。

 普通に傷も残っているし、色々と内部の魔力バランスなどもひっどいものだ。


「ねぇ、お姉ちゃん。今、お姉ちゃんが寝ているベッドの中に僕も入っていい?」


「ふ、ふぇぇぇぇぇえええええええ!?」


 セクハラ発言とも取られない僕の言葉に対して、お姉ちゃんは再びオタクとしての血を騒ぎ出させ、非常に気色の悪い笑みと共に困惑の言葉を上げるのだった。

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