占拠された地

 馬車に乗ってちんたら移動してハルマ小国の方から移動すること五日ほど。

 僕たちは魔族に占拠されている一つの大きな海峡に置かれている管理棟へとやってきていた。


「ここが、強力な魔族によって占拠されている場所ですか?水の近くにある小さな施設見たいですし、そこまで大切な施設には思えませんが……」


 目的地である魔族によって占拠された地へとやってきたフィアは首をかしげて疑問の声を上げる。


「いいえ?ここは世界でも有数の重要拠点よ」


 そんなフィアへとマリーヌが口を開き、彼女へと説明していく。


「その理由は簡単で、海運が私たち人間にとって非常に重要であり、この海峡がそれを支える場所だからよ。良いかしら?どれだけ魔法を駆使したとしても、結局のところ陸路での運搬は何処まで言っても海路には負けちゃうわ。基本的にどんな国でも水がある海や川、海運を重視して動くの。そんな中でここは毎日のように多くの船が通る重要な海峡の一つであり、ここが占拠されているだけで私たちの経済は深刻なダメージを負うわ」


「お、ぉぉ?」


 海運。

 それの重要性はレべチであり、空路の発達や鉄道の発展によって革命を迎えたと言って良い陸路での運搬の急成長があったとしても、結局ものを多く運べるのは海運であり、海運こそが全てと言える。

 それを魔族はちゃんと抑えに来たわけだ。

 まずは相手の補給を断つ……正しい戦略だ。


 まぁ、魔族はその戦略の発動が早すぎるが。

 大規模な戦闘が起きてもいないのに補給なんて関係ない。

 これでは物理的な経済制裁だ。こんなものを実行するとか正気の沙汰ではない。

 だが、それを実際に成功させて考えたくもないほどの被害を実際に出しているのだから恐れ入る。


「それをわかっているからこそ、相手もここにかなりの人物を派遣してきているわ。既に多くの兵士が出陣しているけど、未だ奪還には至っておらず、多くの犠牲者が出ているわ」


「な、なるほど……」


 熱弁したマリーヌの説明の全てを聞いたフィアはいまいちよくわかっていない表情で頷く。

 彼女は未だ小さく、貴族としての教育を受けているわけでもない一般庶民である。

 普通に考えて、物流に関して熱弁したところで通じるわけがない。


「つ、つまりは大事なところなわけですね!」


 フィアが辿り着いた結論は簡単だった。


「えぇ!そうよ!」


 そんなフィアの言葉にマリーヌは自信に満ち溢れた表情で頷く。


「ん、行こうか。話し終わったのなら」


 そんな二人のやり取りに少しの意識を割いていた僕は自分の手にある魔導書を閉じてゆっくりと立ち上がるのだった。

 

 

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