野営

 世界中に散っている強力な魔族たち。

 魔王率いる魔族たちは純粋に軍勢を率いてミレニア小国を滅ぼし、ハルマ小国をも踏み潰そうと侵攻していた中。

 その一方で内地、ツァウバー王国の古城に廃墟された砦、国内で三番目の規模の炭鉱。フラクション帝国の農業地帯に軍事基地、工場地帯などなど。

 多くの国の重要拠点を強力な魔族が単騎で襲撃し、そのまま占領してしまっているのだ。

 

 今も、多くの国がそれらの魔族を排除するべく激闘を繰り広げているが、それでも返り討ちにあってしまったり、戦力が整わなかったりで順調に敵を排除出来ているとも言い難い。

 ゆえに、僕のような人間も敵を叩くために行動しているのだ。


「……んっ、さむ」


 そのために移動をしている僕たちではあるが、魔族がいる場所への移動にはそこそこの時間がかかってしまう。

 普通に日を超しての移動となる。

 常に魔法で移動するわけにもいかないしね。


「ネージュ様!寒いなら、こちらにどうぞ。焚火がございますので」


「……ありがとう」


 夜空で満天の星が輝く夜。

 少しだけ寒い風も吹く中、馬車の中で魔導書を読んでいた僕は自分の位置をフィアの隣へと移動する。


「は、はわわ……え、えっと……もう少しで夕食の準備も出来ますのでお待ちくださいね」


「うむ」


 僕は魔導書の続きへと目を通しながら焚火の上に置かれている鍋で料理を行っているフィアの言葉に頷く。

 今日は僕が移動中に魔法を使って適当に狩った鳥を使ったシチューである。


「出来ましたよ」


 しばらくの間、僕が魔導書を読み進めているとフィアが完成の言葉を告げる。


「あっ?出来た?」


 その言葉を聞いて僕は魔導書を仕舞い、遠くで薪を切っていたマリーヌがこちらの方へと駆け寄ってくる。


『うーん、相変わらずこの娘は美味しそうなものを作るなぁ』


『私も食べたいな……」


「お前らを出すわけにはいかないんだから大人しくしてろ」


 フィアの作った料理に対して羨望の声をあげるリリスとグラム。


「はい、どうぞぉ」


「ありがとう」


 そんな二人の言葉を退けて僕はシチューの入った器を頂く。


「ひゃー、今日も美味しそうね!いやぁー、私もネージュも料理はてんで駄目だから助かるわー」


 別に作ろうと思えば作れるけどね?

 まぁ、面倒だから僕は料理を省いて生のまま鳥を頬張るのだが。


「ははは、私がお役に立てて光栄ですぅー、それでは皆さん。いただきましょうか」


「「いただきます」」

 

 僕たち三人での緩い旅。

 その一日の終わりの始まりとなる夕食を僕たちは頂き始めるのだった。

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