知らぬ間に

 僕が魔王の本拠地で喰らった魔法によってどこか遠くへと押し出されるような感覚を感じた後、己が立っていたのは元いた研究所ではなく全然知らない森の中であった。


『……これは、遭難か?』


『あれだったら私が龍になって運ぼうか?空からだったらどこにいるのかもわかると思うけど』


「いや、別に心配は要らないよ……ここなら直ぐ帰れる」


 転移魔法を発動する場合は己の位置と飛びたい場所の座標が必要となってくる。

 今回のような場合だと、自分が今いる場所が問題になってくるのだが、これでも座標がすぐにわかるようどこにいてもわかる世界中の至るところにその場所の目印となるものを魔法で作っている。

 それら幾つもの座標を元にすれば、自分の位置を割り出すこともそこまで難しい話ではない。


「うし、行けそう」


『マジか、こいつ』


 あっさりと問題を解決してみせた僕を前にリリスが少しばかり引いている中、僕は転移魔法を発動させてマリーヌのいる砦の方へと戻ってくる。


「……うおっ!?」


 僕が転移したその先。

 そこにはちょうどマリーヌのすぐ隣であった。


「い、いきなり現れないでよ、びっくりするじゃない……あっ!?っていうか、ネージュってば何をしたの!?」


「ん?」


 僕はマリーヌの言葉に首をかしげる。

 何をしたのとは何だろうか……?マリーヌから何をしたのかと問い詰められるようなことはしていないはずなのだが。

 僕の実験室の存在でも嗅ぎつけられたか?


「ん?じゃないわよ!私たちの砦の前にあった魔族が撤退を開始、魔族の砦もただの 瓦礫の山となって崩れていったのよ!攻勢に関しては任せて欲しい、ってネージュが行っていたのだし、いつものように何かをしたのではなくて?」


「……え?」


 若干の警戒心を持った僕に対して告げたマリーヌの言葉はちょっと想像していたものとは大いに違うものだった。


「あぁ……なるほど」


 僕があの魔族の砦でやったことなど三人の魔族と接敵し、一人を殺して一人を捕虜としたくらい。

 大したことはしていないが。


「僕が魔王本人が滞在する本拠地へと直接殴り込みにって結構な痛手を負わせたからかな?流石に本拠地への襲撃は効いたらしい」


 本拠地では大暴れをしている。

 彼らが撤退したというのであれば……結構な数はやっているはずだし、魔族の子宮があった部屋に散らばした罠のこともある。

 戦力を一旦元の位置に戻したのだろう。


「何をやっているの!?」


 一人で納得している僕の前で、マリーヌが信じられないと言わんばかりの表情で大きな声をあげているのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る