魔族の本拠地
渾身の一発。
己が出てきた巨大な何か、未だ全容がつかめぬ不気味な魔王の子宮に叩き込んだ僕の魔法は煙に包まれるだけで何も起こることはなかった。
「やっぱ無理か、こいつは魔王の肉体であるわけだしな、こんなもので壊れるほどやわじゃないか」
行けるかと思ったが、行けることは無かった。
流石に魔王の子宮を一発で叩き潰すことは出来なかった。
『初っ端にやることじゃないわね』
『……エゲツナイことするなぁ』
容赦なく一番大切な場所に魔法を叩き込んだ僕に対して中にいる二人が実に複雑そうな声色を向けてくる。
「これくらい普通でしょ……っということで、ここに罠を張巡らせておこうか」
ここが全ての魔族が帰る場所。
めっちゃくちゃ大量に罠を置いて、帰ってきた段階で死ぬようにしてやるぜ。
中々壊せないようなのに、大量の罠に対処するためにやってきた人を殺すための罠に、完全にすべての罠がなくなったと思わせたタイミングに発動させる罠に。
一年後とかに起動する罠まで作ってぇ……。
「ふんふんふーん」
僕はバカみたいに巨大な魔王の子宮の前で大量の罠を張巡らせていく。
「よし、それじゃあ……魔王軍の本拠地荒しといきますか」
数時間くらいかけて完璧に作った罠の大群。
それらに満足した僕はようやく薄暗い魔王の子宮が置かれていた部屋から出る。
「……」
部屋から出てあるのはまぁ、普通に廊下。
照明が少ないせいで少しだけ薄暗くなってしまっている廊下であった。
「ふんふんふーん」
そんな廊下を僕は一切の気負いなく進んでいく。
「お邪魔しまーす」
そして、僕は魔王の子宮からしばらく離れた先で、ようやく見つけた一つの部屋のの鍵がかけられている扉を強引に開けて中へと入る。
「……んがっ!?」
「おっ?」
部屋の中にいたのは一人の魔族……来ているズボンを降ろして陰部を露出させ、その陰部へと手を伸ばしている男であった。
「草」
「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああ!?」
その男はまさしく自慰行為中であった。
「って、んぁ!?に、人間……ッ!?」
だが、そんな自慰行為中に他人が部屋に入ってきてしまった状態の魔族はそれでも僕のことを見て的確に異常事態に気づき、慌てて魔法を発動。
「緊急!緊急!侵入者だ!俺たちの城に人間がいやがる!場は憩いの部屋だ!」
発動したのは攻撃魔法でも、結界魔法でもなく、連絡のための放送魔法。
彼は敵を前にしながら味方への連絡を優先したのだ……己が初めて接敵したと素早く判断して。
「正解」
一人の兵士として完璧な対応をしてみせた魔族に対して、僕は笑顔と共に死を齎す魔法をぶつけるのだった。
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