因縁

 この砦へと詰めている国の人間の数は多い。

 砦の所有主であるハルマ小国の兵隊は当然とし、長い歴史に安定とした国力を持つツァウバー王国、北方の遊牧の地を狩る騎馬民族国家、多くの資源に恵まれた地であるアムレート連合国、急速に軍事力と領土を拡大しつつあったフラクション帝国、広大な領土を持つ凍土の国、インぺトゥス王国。

 それらの国々の一部の部隊が砦の中へと密集している。


「はっはっは!ツァウバー王国も堕ちたものよ!まさか援軍がかのような子供一人だけとは!」


 そのような砦の中で報連相は非常に大事であり、僕が援軍としてやってきたというのもしっかりと他国にも周知しなければならないのだ。

 そんな中で、僕の前にいる一人の白髪が目立つようになってきた年代の将兵が口を開く。

 

 多くの国の者が居合わせるこの場で僕を前にしながら堂々とフラクション帝国の将兵が直接侮蔑の言葉を投げかけてくる。


「なるほど、貴公には僕が援軍で不相応に見えると……」

 

 そんな言葉に対して彼が話していた言葉、ほとんどの国の貴族が教養として学ぶかつて存在していた大帝国の言語である永語を使って僕はフラクション帝国の将兵へと声を返す。


「間違いなくそうであろう。なぁ?者ども!」


 そんな僕の言葉に対してフラクション帝国の将兵は迷いなく頷く。


「まったくだ!」


「まさか、このような餓鬼が援軍とは!」


「ツァウバー王国も末期だな!」


「はっはっは!どうやらかつての大国の姿ないらしい!」


「これでは我が帝国に飲み込まれるのも時間の問題だな!」


「はっはっはっはっは!」


 そして、フラクション帝国の将兵の言葉に対してただの一兵までもが僕に向かって直接侮蔑の言葉を口にして大笑いを浮かべてみせる。


「なるほどなるほど……それでは、証明してみせましょう。己がここに立つのに値する人物であるということを!」


 これはわかりやすい挑発であり……何より、僕にとって非常に都合の良いものでしかなかった。


「よろしい!出来るものならやってみると良い……出来るものなら、なぁ!」


「……ふっ」


 言質は取ったぞ。

 フラクション帝国の将兵よ───ッ!


「……ッ!?ま、待ちなさい!」


 一瞬にして己の中の魔力を膨れ上がらせると共に僕はその場を飛び上がる。

 さっき立っていた場所は砦の屋上。

 ここからであれば魔族側の砦が良く見える……。


「天撃」


 許可は得た、ならば躊躇う訳など何もあらず。

 僕の放つ魔法は一つ。

 圧倒的な魔力を元にありとあらゆるものを灰燼へと返す天より落ちる神の天罰、魔法による一撃であった。

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