お姉ちゃん

「えっ、いや……なん、え?ここ、牢屋だよ!?何したの!?」


 牢屋の中に閉じ込められている僕を見てマリーヌが驚愕と同様の声を漏らす。


「特に何も、僕はマリーヌから言われた通りに最前線の方へと赴いただけだよ。そんなことより……僕はマリーヌの隣にいる女性の方が気になるなぁ」


 僕はするりと牢屋から抜け出してマリーヌの隣にいる簡素な服を着させられている女性へと絡みつく。


「ちょっ!?な、何この子……ッ!?」


 それに対して女性は僕たちの使うツァウバー王国の言語を口にする……うーん、牢屋の中にいた少女もそうだったけど、なんで他国の人間が、それもかなり距離の離れた国に住んでいたらしい二人がツァウバー王国の言葉を……?

 まぁ、そんなことは別に良いけど。

 

「貴方、そこの牢屋にいた少女の姉、だよね?」


 そんなことよりも大事なのは魔法に関することだ。


「……ッ、な、なんでそれを!?」


「図星かな。と、言うことは、だ……君にも魔王軍の瘴気があるんだよね」


「わ、私の妹に何したの……ッ!」


 ふへへ……被検体だ。

 データ一つじゃわかりにくいからね……本当は何十、何百とほしいけど、二つで我慢しよう。

 後は推察で。


「お姉ちゃん!見て!私、魔王軍の瘴気消えたの!」

 

 僕は女性の服をたくし上げてそのお腹に刻みこまれている魔王軍の瘴気の模様へと触れる。


「ッ!?な、なんで!?な、何をしたら……ッ!そ、そんな……私たちを縛っていたものが」


 ほむほむ。

 やっぱりかけられた当人の魔力量に従ってその性質が変わるんだな。随分と面白い性質をしていることだ。

 他者依存……相手との戦闘に使う魔法であれば完成形に近いね。

 色々と厄介な使い方が思い浮かびそうだよぉ……ふへへ、ちょっとだけ僕の本筋とはズレているような気がしなくもない技術ではあるけど、それでも興味深い。


「そうなの!お姉ちゃん……ッ!その子が解いてくれたの!」


「この子が私たちを……って、何しているの!?」

 

 自分の服をたくし上げて自分のお腹に触れられていることに気づいた女性は慌てて僕を突き飛ばして距離を取ってくる。


「舐めるなァ!僕はツァウバー王国の辺境伯、次期当主だぞぉ!」


 それに対して僕は視線を女性の顔の方に上げてから堂々と声を響かせる。

 何かあったときは権力パワーだ。平民とかが相手だとこれだけで勝手に相手がひれ伏してくれる。


「……ッ!?」


「えっ?」


 僕の言葉を受けて女性と少女は驚愕しながら体を震わせながら慌てて跪いて頭を垂れる。

 それどころか、マリーヌが連れてきていた騎士たちまでもが慌てて頭を垂れている。これが貴族の特権である!


「よし、ということで確認を続けさせてもらうな」


 僕は跪いた女性の方へとにじり寄っていく。


「何してんのよ!」


「あてっ」


 そんな僕に対して権力パワーが通じない王女たるマリーヌが拳骨を落として止めてくるのだった。

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