「いやぁー、君のような子供を通すわけにはいかないんだよ。出来れば引いてくれないかな?あまり乱暴なことはしたくないんだ」


 現地の言語を覚えてバッチリの僕は意気揚々と砦の方に向かったのだが、そこで砦へと入る入り口を警備する門番にガッチリと入場を止められてしまっていた。


「いや、だから僕はツァウバー王国の貴族で、援軍としてやってきたんだって!」


「だとしたらその滑らかな現地の言葉はあまりにも不自然すぎるでしょう。現地にも程があるとも」


 僕の説明はいとも簡単に門番の一人に弾かれる。


「それではこれでどうだ?しっかりとツァウバー王国の言語だぞ」


 だが、それでも僕は負けずに口から現地の言葉ではなくツァウバー王国の言葉を使って声をかける。


「適当に喋っても何も意味はないぞ」


「通じろ!?」


 だが、当然のことながら僕の言葉はただ伝わらずに空回りしてしまった。


「それにそもそもとして大国の貴族が何の護衛もなしにこんなところに来るわけがないだろう。子供一人で来るわけがない。援軍と言っても一人で何をするつもりなのだ?少し考えれば自分が無茶を言っていることはわかるだろう。」


「……いや、それは……そうだが」


 まったくもってその通りではある。

 だが、僕の言い分も聞いてほしい……顔で一人くらい気づく人いると思うじゃん。さっきからツァウバー王国の人間が一人もいない。


『凄いな。そのすべての行動が裏目に出ている』


 ……うるさいよ、リリス!


「重要人物が、人々から憧れる英雄たちが集まっている砦へと入り、一目見たいという気持ちもわからなくはないが、それでも無理なものは無理なのだ。ここで暮らしていればあの方々たちの顔を見る機会もあるだろう」


「……」

 

 僕とてツァウバー王国のみならず他国にまで武勇伝が幾つもの伝わっているロムルス家の次期当主なのだが。


「だから、一旦今日のところは諦めな」


 普通に考えて、十二歳の少年がただ一人でツァウバー王国という遠い国からここにやってくるとは思わないし、しかもそれが重鎮であり、援軍であると言われても信じられないだろう。

 しかも、その少年は実に滑らかな現地の言葉を話しているのだ。

 これでツァウバー王国の貴族であるなど誰が信じるか。


「……」


 ヤバいぞ?一切、言い訳が思い浮かばない。

 ここから穏便に逆転できる言葉が一切見当たらない……あまりにも自分の中にある手札が悪すぎる。

 

「ほら、帰った帰った……これ以上、食い下がるようなら一旦捕まえざるを得ないからな。俺たちは重要拠点への侵入者を防ぐという重要な使命があるのだ」


「……あれ?詰んだ」


 結局、普通に言い負かされてしまった僕は砦の前で呆然と立ち尽くし───


「あっ、いや……違うやん。少し入るだけで良いんだから普通に僕を捕まえてくれや。ほれ」

 

 そこで逆転の一手を思いついてしまった僕は門番の前で両手を合わせて早く自分を捕えて牢屋へとぶち込むよう懇願するのだった。

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